「陰陽頭・・・・」
「・・・・・」
""
「あっあぁ・・・・・どうした」
「これを」
「わかった。見ておけばいいのだな?」
「はい」

陰陽生はどこか心配そうな顔をしてを見た。

「なんだ?」
「陰陽頭・・・・お体の具合でも悪いのでは?」
「まさか。私はそこまで不摂生ではない」
「それならよろしいのですが・・・・・・・」

陰陽生は心配そうにの顔を見て下がっていく。は溜息をついた。
螢斗が心配そうにを見上げる。は弱々しいといっていいほどの笑みを浮かべ、その頭を撫でた。

「吉昌様のところに行ってくるよ」
"あぁ"

は立ち上がって吉昌のもとへむかう。
昌浩とその長兄、成親がいた。

、昌浩とともに西国へ向かってはもらえないだろうか。出雲国へ」
「・・・・・・・随分と唐突ですね・・・・・・・別に私はかまいませんよ」
「すまない」

はそのあとすぐ退出し、螢斗とともに貴船へむかった。

「高於」
「どうした、

烏帽子を取り、結っていた髪をほどきながら高於の前に歩み出る。

「神殺しの焔は?」
「ある」
「そう・・・・・・・・」
?」

は髪を結びなおしながら自嘲の笑みを浮かべた。

「私も馬鹿なものね。騰蛇のことをあれだけ信じていると言っておきながら殺そうとするなんて」
「・・・・・・・」
「昌浩はどうするのかしら」
「あれもお前と同じ道を選ぶだろう」
「・・・・・・・」

は背後をむいた。そこに決断した昌浩が立っていた。

「人の子らよ。どうしたい?」
「私は神殺しの真紅の焔を」
「よかろう。そして、小さな人の子。屍鬼を討つというのならば、この焔を貸し与えよう」

高於が手を掲げた。その手に白い焔が現れる。
の口から我知らずもれ出た言葉があった。

「軻遇突智命・・・・・・」
「そう。神殺しの神の炎だ。紫に渡す真紅の炎は輝津薙命という軻遇突智命の生まれ変わりの神の力だ」

高於の言葉に紫の胸が僅かに鳴った。
聞き覚えのある神の名だった。

「お前たちに渡すこの焔は依り代を必要とする。十二神将がひとり朱雀、天照に太刀を借りるといい」
「ありがとう」
「そして、もう一つ・・・・・」

高於の言葉に二人の目が僅かに見開かれた。


、お前は騰蛇をどうしたい?」

高於の神に焔を借り受ける前日。翡乃斗はそうたずねていた。
は狭霧丸の手入を止め、彼を見た。
静かな光を宿した瞳に感情はない。一度目覚めてからずっとそうだった。

「取り戻したい」
「何故だ?」
「私の大事な友であり、私の大事な友の大事なやつでもあるから」
"それだけのために?"
「私は騰蛇がいなくなって悲しむ人を三人知っているわ。昌浩、晴明、・・・誰もが騰蛇のこと大好きだから」

つまりは・・・・

「誰も悲しませたくないということか」
「うん」

は僅かに悲しげな笑みを浮かべて狭霧丸の手入を再開した。

「感情がなくなっても、私は大切な人を守るために戦いたい」
「輝津薙の焔を使うのか」
「うん」

天照や月読から聞いた。神殺しの神軻遇突智命と神を生む神輝津薙命。名前は同じであるが、その力はまったく反対である。
全てを燃やし尽くす軻遇突智命と再生を司る輝津薙命。
輝津薙命の焔は、使ったものの感情を糧をして力を発揮させる。つまり、焔を使いすぎれば、使用者の感情はいっさいなくなるということだ。

「昌浩だけに辛い思いはさせない。見ているだけもいや。私は・・・・・・守りたい」

の決断を変えることはできなかった。
人の心が何よりも硬いのだと、神々は知っているから。
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