緋乃は、静かに眠るを見下ろしていた。
袖口からのぞく腕には無数の裂傷が走っている。
瀕死の昌浩と同じようにもまた瀕死状態だった。まだ目覚める時ではないというのに、無理やり力を解放させたため反動が襲ってきたのだ。
昌浩は十二神将天一が移し身の術を使ったことで持ち直しはしたが、今はまだ目覚めていない。
そしても。彼女を取り巻く霊気は未だ不安定なままである。

「私達は何ができたというのだ・・・・・・・いつも肝心な時にこの子のそばにいてやれない・・・・・」
「緋乃・・・・・・」

緋乃のそばに弓狩が姿を見せた。緋乃の肩に優しく手を置く。

「誰よりも痛みを知っているのに・・・・・何故助けられない・・・・・・」
「それが咎だからだろう」

二人の背後から翡乃斗の声が聞こえた。
振り返ればそこには螢斗と翡乃斗が珍しく人の姿をとって立っていた。

「それがお前たちの咎だからだ。何があっても助けてはいけない。冥府に連なる者達は皆そうだ」
"お前たちを禁鬼としたのは天照と月読の好意のおかげだろう。でなければお前たちは今頃とっくのとうに死んでいる」
「あぁそうだな」
"我らは気に食わん。お前たちのその態度が"
「失せろ。今すぐにだ。さもなくば、俺たちが噛み殺す」

二人に言われ、緋乃、弓狩の姿が消える。
螢斗たちは鼻を鳴らすと、眠るのそばに座り込んだ。

・・・・・・・」
"何故、お前がこんなことにならなければいけなかったのだろうな・・・・・・"

両親も彼女の秘密を知らない。知っているのは、彼ら二人と天照と月読と閻羅王族、あの二人の禁鬼に禁鬼五人衆、篁だ。
高於の神も知っているのだろう。
二人は強くこぼしを握った。

「お前の体を、こんなふうに傷つけたくはなかった・・・・・・・・」
"生きることを止めてまで・・・・・お前はお前の中のものに何を求めた?"

それは体の中に入れておけば、確実にの命を削るものなのに。

「我らが主はお前だけだ。我らはお前でないお前に仕える気がさらさらないからな」
"確かに。お前はお前であってこそだ・・・・・"

二人の姿がゆっくりと消えた。

「父上」

晴明ははっきり言っての真摯な目が苦手だった。
どうも僅かに浮かんでいる涙を見ると反論できなくなってしまうのだ。

「なにがあったのか、初めから終わりまで話していただきますよ」

反論できない。母親の体質をしっかりと受け継いでしまっているようだ。
晴明は事の顛末をに話し始めた。

「そうですか・・・・・・・・・それで昌浩は瀕死の状態で・・・・・・」
「今、昌浩はどうしている?」
「彰子がついていますわ・・・・・でも、物の怪がいないと淋しいですね」

物足りないのだ。二人がいつも一緒にいるところしか見ていないから。
足りなくて足りなくて・・・・・・・
は瞑目した。

も、霊力が暴走したとか・・・・」
「うむ。かなり強かった」
「そりゃ・・・・・・・こほん、今は眠っていますわ。未だ霊力は不安定ですね」
「・・・・どうしたものかのぅ」
「ところで、父上。青龍が騰蛇を殺すと力んでおりましたが・・・・・・・・」
「無理じゃろう」
「あぁやはり・・・・・・よくて相打ち、悪くて返り討ちですものね〜」

騰蛇に勝つのはそれこそ、天津神でなければいけない。十二神将では勝てるわけがない。
そして人間でも・・・・・・・

「屍鬼に操られていると時間はありませんね」
「?」
「黄泉の鬼。封印が解かれれば騰蛇の体は用済み。消し去りますわ」
「確かに」
「父上、いかがなさいますか。なんでしたらこちらでかたはつけましょう」
「だが・・・・・・・・・・昌浩が悲しむ」

言葉にこそしないが、だって悲しむに決まっている。
昌浩もも幼い頃から騰蛇と触れ合ってきたのだから。
は小さく微笑んだ。

「わかりました」

そして言う。

「屍鬼の引き離し方、探してみましょう」

のそばに太裳はいた。
そっと頬を流れる涙を拭き取ってやる。

・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・と・・・だ」
「あなたはいつだって騰蛇のことばかりだ・・・・・・」

私が想っているのには気がついてくれないのに。

「少しでもあなたの力になりたい。私を頼ってください・・・・・」

あなたが苦しまずにすむというのならば、私は・・・・・・



いったい私は生まれてからいくつ、大切なものを失ってきたのだろう。
どれもこれも私の力が足りないせいだった。
だから今度こそはと思ったのに。何故守りきれなかったのだろう。
恋人のような好きじゃない。大事な友人として好きだから。
傷つけたくはないのに。
どうか神さま。これ以上、騰蛇と昌浩と傷つけないでください。
私の命を代わりに差し出してもかまわないから・・・・・・・・・
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