青龍の言うとおりだった。
安部邸に帰った瞬間、の目の前に太裳が姿を見せ、問答無用で彼女を寝かしつけたのだ。
はさして文句も言わず眠った。それからしばらく後である。
目を覚ましたはなんとなく、晴明の部屋に行かなければいけないような感じに襲われ、起き上がった。
部屋の中に太裳と青龍というなんとも珍しい組み合わせで神将がいた。

「おはよう」
「おはようございます、・・・・・・よく眠れましたか?」
「うん。あ〜でも出仕・・・・・」
「物忌みですよ」
「・・・・・・・・なんだかだんだん真面目からかけはなれていくよ、私」

はそう呟いた。起き上がろうとする彼女を太裳が手伝う。

「むしろ既に真面目ではないだろう」
「青龍・・・・・・・・・真面目だって。頑張ってるんだよ、物忌みはあんまりないし、夜警だって昌浩がやり始める前にやってるし・・・・・・日夜骨身を削ってだね・・・・」

姫。どうした?」
「晴明様がお呼びです。なんでもあなたに見てもらいたいものがあるのだとか」

はうなずいて立ち上がった。そしてとともに晴明の部屋へむかう。
穏行した太裳と青龍もついていった。

「晴明、呼んだ?」
「おぉ、。ちとこれを見てはくれんか」

晴明の示す方向には昌浩がいる。そしてその昌浩を見たの目が丸くなって、次の瞬間にはその場にいた誰もが耳を塞いでしまうほどの叫びが響き渡った。

「彷徨いだした魂魄!なんでこんなとこに?!」
「夜警のとき、というか昨夜、百鬼夜行が現れてだな」

今は物忌み中の昌浩。しかし、そんなことは気にもせずいつものように夜警に出ていた。
そして百鬼夜行に出会った。いつもなら騰蛇の力を借りて調伏。が、今回ばかりは違っていた。
藤原敏次と検非違使たちが夜警を行っていたのだ。彼らが襲われたのを見た昌浩は六合の長布を借り受け、それに身を包んで彼らを助けた。
しかしちょうどそのとき、百鬼夜行とともに今昌浩の中にいる魂魄がふらりと姿を見せた。百鬼夜行に襲われかけたそれを昌浩は守り、そして何故か敏次に攻撃された、とそこまで聞いたは額を押さえた。何もいえない。
しかもと物の怪は続けた。
顔をちらりと見られてしまったらしい。もうは溜息をつくしかなかった。

「百鬼夜行ね・・・・・・・嫌な予感はしていたんだけど」

はそう呟いて昌浩に眼をやった。昌浩の中に入り込んだ魂魄は随分と深いところにまで入っている。
冥官の力を持ってすれば引きずり出せないこともないが・・・・ないのだが。

「あぁ、私って無力・・・・・」

溜息をつきつつ、は部屋から出て行こうとする。

「どこへ行く」
「冥府。とりあえず燎琉には見つけたって報告しておかないと」
「ところで、先ほどから気になってはいたんだが・・・・・・・・・螢斗と禁鬼たちはどうした?」
「・・・・・・・・・・・あっ」

ぽくぽくぽくちーん、といった様子だった。
は超高速で背後を振り返るが四つの影がない。

「どこに行った?!」
「いや遅いって・・」
「おかしいですね。あの四人組が気配を消さずに・・・・・」

へと目を向ける。も軽く首をかしげた。僅かにその顔が曇っているから恐らくは彼女も知りはしないのだろう。

「・・・・・・・・・・よし、帰ったらしばく」
「こらこら・・・・・・」

は最後に昌浩をむくとそのまま部屋へ戻って行った。昌浩もいささか疲れた様子で部屋に戻って行く。
騰蛇がそれに続き、神将たちが異界へ戻った。
部屋にはと晴明の二人だけになった。

「珍しいこともあるのだ、と思ってしまった」
「私もですわ。緋乃と弓狩が何も言わず姿をくらませてしまうなど・・・・・・・・・何か合ったのでしょうか」
「螢斗たちもだな。あれらがを置いて姿を消すなどまずありえんからな」
「天津神たちが関与していると考えてよろしいのでしょうか・・・・・・・・・」
「わからん」
「父上・・・・・・」


「どうやら今回は冗談でなく、面倒ごとのようだな」
「今までのは冗談だったのか、閻羅王太子」

緋乃の冷え冷えとした声が燎琉の耳朶を打つが、燎琉は取り合わない。

「だが、太子よ。もう冗談では済まされなくなったぞ。黄泉の入り口が開いて面倒になるのはお前たちだろう?」

翡乃斗が言う。

「お前たちも面倒ごとは嫌いだろう」

弓狩が言った。

"我らもうんざりだ。ここらで片付けるのも悪くなかろう"
「だが・・・・・・・それを天照や月読は許すと思うかい?」

燎琉の言葉に彼の目の前にいた青年たちは背後を振り返った。

「あれはあれの為すままにさせておけ。それが定めであり、星宿でもあるのだから」
「だが、天照。あれの本当の姿を知られたら・・・・・」
「利用しようとするものはいくらだって出てくるだろう。だが、私達はそれを防ぐためにお前たちをつけた」
「そしてお前たちも輪廻を外れてまであれのそばにいるということは、そういう考えなのだろう?」

禁鬼たちは何も言わない。天照はそれでもいいのか、ふっと微笑んだ。

「いずれわかる・・・・・・・そう、我らが何をしようとも、結局さだめは変えられぬ。あれの正体はいつか知られることになろう」
「すべては白日の下にさらされる」
「誰が望む望まないに関わらずな・・・・・」
「緋乃、弓狩、心の準備をしておけよ」

天照は緋乃の仮面をとった。左目の下に模様があった。
鋭い紅色の瞳が天照を見返す。

「あれはお前の罪の証、そうだな?我が妹よ・・・・

天照の言葉に緋乃は何も言わなかった。

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