あなたは独りで月を見ていた。
その横顔がなぜかとても寂しそうに見えてしまって・・・
私は放っておけなかった。

「あの・・・・・」

振り向いた瞳の色は紅。
真っ赤に染まった血の色で。
恐怖心が沸き起こったけど、でもそれはあなたの表情を見たらどこかに消えてしまった。

「・・・・・・泣いているの?」
「泣いてる?」
「えぇ・・・・・」

あなたは泣いているように見えた。
孤独に押しつぶされそうになっているあなたを見たら、いてもたってもいられなくなって。
私は気がついたらあなたを抱きしめていた。
知らない人間に抱きしめられたら抵抗するだろうに、あなたは私を追い払わなかった。

「・・・・・・・何がそんなに悲しいの?」
「・・・・・・・・・・・・・わからない」
「・・・・・・」

あなたは私の肩に頭を押し付けてきた。
あなたの漆黒の髪からは柔らかい香りがしていた。

「私は。あなたの名前は?」
「リドル、トム・リドル」
「そう、リドル・・・・・・寒くない?」
「少し・・・・・」

私は首に巻いていたマフラーを彼の首にまいた。それで少しは温かくなるはずだ。

「・・・・・・・」
「リドル、これ食べて」

私は手提げのバッグからクッキーを取り出した。
昨日、暇だったために作ったものだ。本当は仕事の休みに食べようと思っていたのだが、思った以上に忙しくてそんな時間がなかった。

「・・・・・・」

リドルは黙ってそれを受け取ると口に運んで行った。

「どう?」
「・・・・・・美味しい」
「ありがとう」

リドルは次々にクッキーを食べていった。

「リドル、私の家にこない?あなた、体冷えているようだし・・・・・このまま外にいたら風邪引くわ」
「見も知らぬ男を家の中に入れるのか」
「別に。困った時はお互い様でしょう?それにあなた、なんだか放っておけないの」
「・・・・・・・・・おせっかいはいずれ自分の身を滅ぼすことになるぞ」
「脅しなら結構よ。さっ行きましょう」

私はリドルの手を引いて歩き始めた。リドルは渋々ながらも付き従ってくる。
やがて私の家に着き、リドルを文句を言わさず家にあげるとドアを閉めた。
暖房のスイッチをいれ、温かい紅茶を淹れる。その間リドルは何も言わず、ただうつむいていた。

「はい」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・ねぇ今日は家に泊まっていかない?」
「何故そんなことを聞く」
「だって今見た限りではあなた、どこにも帰る家がなさそうなんだもの。大丈夫、部屋ならいくつでもあるわ。服も兄さんのがあったはずだから」
「・・・・・殺されるとか考えないのか?」
「・・・・・・・殺されたって・・・・哀しむ人がいないもの」

リドルは私の言葉に驚いたように目を見張った。別に驚かせるつもりじゃなかったんだけど・・・・

「兄さんは一週間前に殺されたの。魔法使いだったから・・・・・」
「魔法・・・使い?」
「うん。あなたも魔法使いみたいね」
「・・・・あぁ。お前は違うのか」
「私はとりあえず魔法使いの血を引いているけど魔術学校には行ってないわ」
「何故」
「・・・・・・・・病気の両親と妹を置いては行けなかったもの。だから兄さんに私の夢を託して魔術学校へ行ってもらったわ」

そう・・・・兄には立派な魔法使いになって欲しかった。
毎日兄の梟が届けてくれる手紙には色々なことが書かれていた。所属する寮の監督生になったとか、テストはどうだったとか・・・
そういえば、恋人もできたと書かれていた。他愛ないことばかりだけれど、それでも毎日届く兄の手紙を楽しみにしていた。

「いきなり手紙が途絶えたの・・・・・・」
「なんで・・・・」
「・・・・・・・・学校から連絡があったわ・・・・・・・・家に戻ってくる途中で殺されたって・・・・・・」
「っ!!」
「リドル・・・・・?」

リドルは驚いたような顔をして私を凝視した。
何故・・・・何故そんな顔をするのか私にはわからなかったけど。

「それで・・・・・・お前の家族は・・・・・?」
「死んだわ。今はもう私一人だけ。恋人もいないしね」
「・・・・・・・・」

リドルは辛そうな顔をした。
なんで?なんでそんなに苦しそうな顔をするの?
私はそうたずねたかったけれど、私の中にある何かが邪魔をして結局何もいえなかった。
私に出来たことはリドルの手に自分の手をそっと重ねることだけだった。



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