螢斗、翡乃斗は小野家長姉、に仕える式神である。
その本性は光と闇の神。今が預けられている邸主の式神である十二神将など足元にも及ばない。そして自分たちがまた認めていないやつに大事な主を預けるのは本当はイヤだった。
しかし小野家に家人などいるはずもなく、呪いを受けたまだ子供のを育てるのは二人にとって少し大変な作業であった。
そのため最近孫が生まれたという、陰陽家安倍にを預けることにしたのだ。

「自らがふがいない、螢斗」
"言うな、翡乃斗・・・・・・"

二人は床に寝かされているのそばに本性に立ち戻ってついていた。
安倍家の晴明は快く了承してくれた。
しかしの血縁に当たる篁は中々了承しなかった。どうやら晴明とひと悶着あったらしい。
最後は閻羅王太子に説得され、渋々ながら許可した。太子の言うところではの様子を見に行くことが出来ないから不服らしい。

「だぁっ!」

びくぅと二人は飛び上がる。背後から子供の声が聞こえてきた。
を守るようにして背後をむく。そこにまだようやく四足で歩けるようになった赤子がいた。

「・・・・・安倍家の末孫だ・・・」
"これほどまでに見鬼の才を持っているのか・・・・・・"

穏形している二人の姿を見るほどの力を持っている赤子。それを二本の腕が抱き上げた。
螢斗が顔をあげると真っ赤な髪が目に入った。螢斗は眼を眇める。

"十二神将か・・・・・・・"
「・・・・・・お前たちは・・・・・・」
「十二神将如きにお前たち呼ばわりされる筋合いはないぞ、火将騰蛇よ」

翡乃斗がそう言って神将を睨んだ。一瞬のあいだに翡乃斗と螢斗の姿が人のそれへと変わる。
騰蛇・・・・その名は螢斗も聞いたことがあった。苛烈な炎は生きとし生けるものを全て燃やし尽くす。あとに何も残らせず。
凶将・・仲間達からもそう呼ばれていると聞く。
翡乃斗がふとに眼をやった。螢斗もその視線の先を追う。見ればの手の先がピクピクと動いている。

「あっこら、昌浩」

赤子が騰蛇の腕の中で動き、彼は赤子を落とさないようにと背をかがめた瞬間のことだった。
赤子はスルリとしたに降り、の元へ這って行く。さすがに螢斗たちでも幼子に手を挙げるほどバカではない。

「・・・・・大丈夫か?」

赤子がの顔を頭のほうから覗き込んだ。ノロノロとの目が開いていく。

「っ?!」

自分を覗き込む顔に驚いたのか、はいきなり上半身を起こした。
ゴンッという気持ちのいい音がした。次の瞬間には赤子のかん高い泣き声と額をぶつけたのののしる声が安倍邸いっぱいに響き渡った。
螢斗はやっぱりこうなるか、と額を押さえ、翡乃斗は引きつる口を隠していた。騰蛇は泣き始めた赤子をあやすので必死だった。

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