はハッとして顔をあげた。
隣で寝ていた燎琉が妻の様子に気がついて顔をあげる。

?」
「・・・・・・・・これは」

の耳に歌が聞こえてきた。それは燎琉には聞こえない歌―人が歌っているものだった。

「"闇に揺蕩たゆらう魂あらば、醒めて現、時渡り"」

の口から紡がれる言葉に燎琉は青ざめた。

「"地に染み入る歌あらば、冥き鎖に囚わるる"」
「誰か!にすぐ言伝を!!黄泉がえりの呪詛が行われ・・・・っ!」

の体から力が抜けて燎琉の腕の中に倒れこむ。その顔色は真っ青だった。
燎琉はの魂に術をかけ、今まで感じていた暗い念を祓う。少しばかりの顔色がよくなった。
はのろのろと瞼を開くと燎流を見た。

「燎琉様・・・・すべてが・・・・・狂おうとしています・・・・・・・の・・・・あの子が・・・・・・」
「どうした」
「視えてしまった・・・・あの子が・・・・・・私の大事なあの人たちが・・・・・・・」

冥府の一族になったが故に地上に関与することが出来なくなったは上手く燎琉にものを伝えることができない。
そのもどかしさでは泣き出した。燎琉はそっとを抱きしめる。

「大丈夫だ・・・・・は強い子だから。そして彼も・・・・・・」
「どうしよう・・・・」
、お前の考えるとおりに動いていいんだよ。ただいつもの通り、上の人間達に関与しなければ」
「燎琉様・・・・・・・」
「お行き。ただしたまには帰っておいで。力を補いに」
「・・・・・・・・はい」

は燎琉の首に抱きついた。燎琉はそっとを抱きしめ、その頬に口付けを落とす。
は起き上がると服を羽織った。部屋の外に二人の鬼の気配がする。

「またよろしくお願いしますね、緋乃、弓狩」

外の気配が無言でうなずいた。は微笑むと夫を振り返った。

「すみません。また少しの間しか過ごせませんでしたね」
「いいんだよ」

燎琉も起き上がるとを背後から抱きしめた。柔らかい香りが燎琉の鼻をくすぐった。

「ただ・・・・・・・少し寂しいな。私一人だけだと」
「・・・・・」
「大丈夫。君をいつでも感じてるから」
「はい」

はそう言って笑うと燎琉の腕からすり抜け、外へ出て行く。部屋の外に銀と赤の鬼がいた。
が出てきたのを見ると二人は無言で立ち上がる。

「さぁ行きましょう。また仕事です」

は冥府から現世へとむかっていく。燎琉は無言で彼女を見送っていた。
背後に気配が降り立った。

「久し振りだね、篁?」
「・・・・・・・」
「やはりが心配かい?」
「少し嫌な予感がしてな」

小野篁はの歩み去って行った方向を見た。現世には篁の子孫小野がいる。

「俺にも一仕事ありそうだな」
「あぁ。よろしく頼むよ。私は黄泉がえりで目覚めたのが誰なのか調べなければいけないからね」
「わかった」

二人は互いに背を向けてそれぞれのお仕事場へとむかっていった。

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