彼らの姿を見た昌浩の口が大きく開いたのは仕方あるまい。
自分たちが死んで生まれ変わってから一度も姿を見せなかったのだからもう二度と会えないものだと思っていたのだ。

「冥官も面白がっていた。あのなにかと騒ぎを起こす二人組みが十二神将ともう一度出会うなんて、と」
「いやむしろ彼女自身も騒ぎを起こしていたような気がするな・・・・・」

それはもう色々と。昌浩も晴明も十二神将たちもしょっちゅう巻き添えを食らっていたのだ。
むしろ騒ぎのほとんどは彼女のせいだったような気がしないでもない。

「どうして、来たの?」
「約束を果たしに」

天空は言った。昌浩は不思議そうに晴明を見る。

「あぁそういえば死ぬ前にまた会おうと言った様な覚えがあるな・・」
「・・・・・・・」
「晴明、先ほど一人の娘を見た。あの娘は誰だ?」

黒曜石の瞳を持った女が晴明にたずねる。
勾陳だ。

、昌浩の幼馴染で年は16、神降ろしの力をもった少女だよ。そして私の許婚、かな?」
「兄さん!のことは俺だって狙ってるんです!勝手なことを言わないで」
「昌浩、お前・・・・・・」

紅の髪を持った男が面白そうに金色の瞳を輝かせた。

「なに、紅蓮」
「いや・・・・・成長したなって」
「だがあの娘・・・・・・・少し負の気を背負っていたな」
「まぁな。両親があの子の力を利用しているんだから」
「止めないのか?」
「止められれば私もそうしている。アノコの両親が政界とつながっていなければね」

昌浩が驚いたように晴明を見た。
晴明は軽く微笑む。

「不勉強だぞ、昌浩」
「すみません・・・・・・」
「そして彼女は近々婚約するらしい。と近所のおばさんたちにきいた」

昌浩が驚いたように顔を上げる。
晴明は軽く溜息をついた。

「中年の脂ぎった男のもとへ嫁がせるくらいなら私が処女ごと奪ってしまうのにね」
「兄さん、さり気に危険なことを言わないでください」

確かに、と神将たちはうなずく。
当の本人はさして気にした風でもなくころころと笑っているではないか。
安倍家でそんな話をしていること家でも同じような会話がなされていた。

「婚約・・・・・・・?!」
「えぇ。皇家の跡取りでね、あなたを是非皇家の血筋に加えたいとおっしゃるのよ」
「でも私はまだ16よ」
「あちらも16。さして問題ないだろう」
「でも皇家と結婚なんて・・・・もう晴明さんにも昌浩にも会えないじゃない」
「いいじゃない。あの人たちとの付き合いなんて」

は何も言わずに部屋に駆け込んだ。そしてベッドに倒れこむと枕に顔をうずめ泣き始める。
白い鳥が枕元に降り立った。

「月読様・・・・・・・」
『どうしたのだ、巫女。悲しそうな顔をして』
「私はずっと昌浩たちのそばにいたい」
『・・・・・・・死後、我らのものになるか』
「・・・・・・・そうしたら私はどうなるの?」
『さだめを変えてやろう。皇家に嫁ぐというその運命を』
「本当?」
『しかし条件は死後我らのもとにくること、そしてあともうひとつ。お前の声をなくす』
「声を?」

鳥はじっとを見た。

『お前の気持ちを声なしで伝えるのだ。声なしであやつらが気がつけば声も戻してやろう』
「それだけでいいの?」
『あぁ』
「・・・・わかった。私やるわ」
『ではさっそく今日から始めるといい。ではな、。我はいつでもお前を見ている』

鳥は開けられた窓から飛び去って行った。
は礼を言おうとするが口を開いて声が出ないことに気がついた。

「・・・・・・・・」

は鏡の前に立つ。姿形は何も変わっていないのに、どこか今までの自分とは違うような気がする。
ゆっくりと目を閉じた。次に開いた瞳には決意の光が宿っていた。