昌浩は溜息をついた。
目の前にいるのは幼馴染の少女である。
名をと言う。男っぽい名であるが正真正銘の女である。
「で悠斗はなにしにきたの」
「晴明(はるあきら)さんは?」
「兄さんなら今出掛けてる。家には俺ひとりだけど?」
「なんだ・・・・つまんないの」
は軽く溜息をついた。
昌浩の兄安倍晴明はにとって憧れの青年である。
「、少しは巫女姫だって言う自覚を持ったら?」
「昌浩、私は巫女姫じゃないわ。昌浩の前ではただの。あっもちろん晴明さんの前でもね」
は神降ろしの力を持つ、現代では大変稀有な存在だった。
巫女姫様と呼ばれ、あがめられている。政治家たちもやってくるらしい。
そのせいかの両親は権力に夢中になり、を利用することが多かった。
「ねぇ昌浩・・・・・」
「うん?」
「今度、三人で京都に行きたいな」
「京都?」
「うん」
は椅子から立ち上がるとくるりと一度回って昌浩に微笑みかけた。
「昌浩と晴明さんが生きていた場所を見たいの」
「うん、そうだね。じゃぁ今度の休みにでも行こうか」
「やった!」
と昌浩が笑いあっていると玄関の戸が開く音がした。
とたん悠斗の顔が輝く。
「晴明さんだ!!」
「やぁ、また来ていたんだね。声がするからもしや、とは思ったけど」
「はい!晴明さんに会いたくて」
「それは嬉しいことを言ってくれるじゃないか」
そう言って入ってきた青年はの頭を撫でる。
顔立ちも整った青年だ。は嬉しそうに笑った。
「あのあのっ今度昌浩と私と京都に行きませんか?」
「京都かぁ・・・・・・いいね、僕らの故郷でもあるんだし」
「本当?!」
「でも・・・・家は?」
は固まった。瞳に悲しそうな色が宿っている。
の両親は特別な力を持つ彼女をあまり家から出したがらない。攫われるとかそういうことを考えているらしい。
昌浩や晴明とつき合わせているのはただの暇つぶしにすぎないのだ。にストレスがたまらないように・・・・
「行きたいです・・・・・・・・晴明さんと一緒に」
「・・・・・・そうか、わかった。スケジュールの調整をするよ。京都にいけるように」
「本当ですか?!」
「あぁ」
「よかった!!ねっ、昌浩」
「うん、そうだね」
昌浩は幾分複雑そうな顔で二人を見ていた。
昌浩はが好きである。は晴明が好きで、晴明ものことを気にしているのだ。
昌浩に勝ち目はない。
ほんの少しだけ昌浩は落ち込んだ。
「じゃぁまた来ますね!昌浩、バイバイ」
「あっうん」
は安倍宅を出て行った。
晴明が苦笑を浮かべながら弟のことを見る。
昌浩は晴明をにらんだ。
「なんですか」
「いや別に。そうそう、今日は客人がいるんだ。誰だと思う?」
「客人?母さんたち・・・ではないよな。二人ともまだ外国だし・・・・・・誰?」
「まったく。そうやって思考の安住にばかり頼っていると将来ろくなことにならないぞ」
「・・・・・・・・」
晴明は軽く昌浩をからかうと背後をむいた。その視線の先を追った昌浩の目が丸くなる。
「・・・・・・・・十二神将・・・・・・・・」
それは遥か昔に友として戦った神将たちであった。