・・・」
「うん?」
「ずっと気になっていたことがあるんです」
「・・・・・左腕のアザのことか?」
「・・!」
昌浩は疑問を言い当てられ、赤面した。は軽く笑う。
「別に責めちゃいないさ。初対面の人間には必ず聞かれるから」
は自分の腕に目を落とした。左腕に白い蛇の刺青が、右腕に黒い蛇の痣があった。
物の怪も不思議そうに見ている。
「蛇神であるということさ」
「蛇神って・・・・・なんですか?」
「ほら、そこの物の怪も言っていただろう。死を司る神だと」
「神様・・・・が?」
「正確には私は片割れだな。本体はちゃんと天津原にいる」
殿は神の血を引いてるとか・・」
「それは本当のことだ。天照大御神、月読命の血をきっかりと引いている。まぁ天照みたいに毒舌でもないし月読みたいに心配性じゃないから親子だとはわからないがな」
はころころと笑う。そして戸を押し開けた。冷たい風が屋敷に吹き込んでいく。
昌浩の背に冷たいものがすべった。
・・・・・・」
「問題ないよ」
はふっと笑った。その瞬間である。
暗闇がいっせいに二人に襲い掛かってきた。
「行くぞ!」
「はい!」
銀の光が一閃した。符を手に持った昌浩は気が抜けた。
が小さくしたうちする。
「なんの用だ」
「やはりな・・・・狐の子を仲間にするなんて」
「狐の子・・・・?」
「月読!!」
「わかっている。何も私はお前たちの生活に文句をつけに来たわけじゃない」
「じゃぁ何をしに来た」
「様子を見に来ただけだ」
ゆっくりと暗闇から一人の青年が姿を見せた。地に届くほどの長い銀髪、白を基調とされた服は都人のものではない。
は青年をにらみつける。
「飢えた狼のような目をしているぞ、
「五月蝿いっ!」
「人の中にいたら苦しいのはお前だろう」
青年はへと手を差し伸べた。
、神は神の地を離れては生きられないのだ」
昌浩はを見た。はただ何も言わず青年をにらんでいるだけであった。
「そのうちお前は自我を失い手当たりしだいに命を喰らっていくぞ。そうなればお前が見つけたその子供もただではすまない」
「私は・・・私は自我を失う前に自分で死んでやる」
「やめておけ。そんなことをしたら陰陽の均衡が崩れる」
「五月蝿いっ!」
月読がの腕をつかんだ。の体から力が抜ける。昌浩は月読を見た。
の体を横抱きにした月読は昌浩を見た。
は連れて帰る。はまた後日だ。お前もさっさといるべき場所に戻ることだな」
そう言うと月読は気を失ったを抱いたまま姿を消す。
その場にへたりこんでしまった昌浩の耳に慌てたようなの声が聞こえてきた。
「昌浩!」
・・・・」
「姉上は?!」
「今・・・・・月読って・・・・」
「月読様が・・・・・・なんということ・・・・・・」
は指を一度鳴らした。漆黒と深紅の狼が姿を現した。
「飛燕、陵雨。昌浩殿を屋敷まで送ってください。決して怪我のないようにですよ」
二匹の狼はうなずく。
そして陵雨が昌浩の首根っこを掴み、飛燕の背へと放り投げる。そして自分は物の怪を背に乗せて走り出した。
昌浩はを見る。
殿!!」
「大丈夫。心配要りません」
の姿が森の木々にさえぎられて消えた。