は地図を見ていた。
そこには屋敷全体の見取り図と領地の様子が描かれている。
今、ひとつの黒い点が屋敷に向かって駆けてくる。その黒い点とともに銀色に輝く点も動いていた。
「昌浩殿がいらしたようですね。珀、昂雅、お出迎えをお願いします」
白と黒の梟が琉珱のそばから飛び立って行った。
はもう一度地図を見て眉をひそめる。
「どうやら招かれざるお客様がいらっしゃるようですね・・・」

昌浩は屋敷についたときへとへとになっていた。物の怪も疲れたように息をついている。
黒狼は昌浩を一度だけ見て首をかしげると闇の中へ消えて行った。
昌浩はあたりを見回す。いったいどのくらいの広さがあるのだろうか、と考える。
と羽音が聞こえてきた。思わず身構える昌浩だが現れたのが梟だとわかると肩の力を抜いた。
「なんで・・・・・」
「昌浩、どうやらこいつらは俺たちを案内してくれるらしいぞ」
梟たちは昌浩たちの周りを飛び回る。昌浩は梟たちの飛んでいくあとを着いていった。
屋敷の中に入る。蝋燭の明かりだけでも十分に明るい。
昌浩はふとのことが気になった。独りになったは無事に屋敷までつけるのだろうか、と。
「昌浩、どうした?」
「ううん、なんでもないよ」
「あの女のことなら心配要らないだろう。ここに住んでいるんだし」
「そうだね」
梟たちがひとつ、明るい光が漏れる部屋へと入っていった。昌浩もそれに続いてはいる。
どの」
「こんばんは、昌浩殿」
が笑顔でそこにいた。
はやって来た昌浩に席を進める。部屋の中にあの梟たちがいた。今は止まり木に止まり羽に顔をうずめている。
「すみません、事情もきちんと話さず頼みごとをしてしまいまして」
「いいえ。あの・・・・殿は」
「姉上ならば無事でしょう。飛燕がついていたと思いますから」
「飛燕?」
「陵雨に乗ってきたでしょう?黒狼の。あれの兄弟にあたるのが飛燕です。深紅の狼ですよ」
「はい。さぁおかけになってください。体調のほうはいかがですか」
「あっそういえば・・・・」
先ほどからしていた耳鳴りがいつの間にかやんでいる。
は昌浩の顔を見て微笑んだ。
「大丈夫のようですね。結界を張っておいて正解でした」
はそう言って昌浩に茶を差し出した。
「あなたに来ていただけるとは・・・・・・ふふっ、姉上もどのようにして晴明様を丸め込まれたのでしょうね」
「丸め込んだとは失礼な。正当な取引だ」
そんな声がした。部屋の入り口に木の葉だらけになったがふてくされた顔で立っていた。
「お帰りなさい、姉上」
、私は晴明と取引をした。三日だけ昌浩の力を借りる代わり晴明の望むことをひとつだけかなえようと」
「おやまぁ・・・・・・では」
「あちらにも話はつけた。近日中にも会えるだろう」
「それはそれは・・」
はくすりと笑った。
昌浩は何がなんだかわからない。はそんな昌浩を尻目に木の葉を落としている。
「招かれざる客がいるようだな」
「そのようですね」
「いくつだ」
「五、というところでしょうか」
「少ないな」
「珍しくですね」
は茶を一口すする。の雰囲気がゆっくりと変わっていた。
「昌浩、とりあえずあそこの窓から外を見てみろ」
昌浩は言われたとおり部屋にある窓を開け、暗い外を覗いてみた。
そして驚く。この屋敷を囲むようにして十の丸い光があるのだ。
・・・・」
「お前でも簡単に倒せる。アレは悪霊だ。上から遣わされてきた・・・・な」
「上?上ってどこ」
の細い指が天井を指した。昌浩はその指先を目で追うがそこには天井があるだけだ。
わけがわからず首をかしげるとは軽く笑った。
「天だ。まさかあの三人が悪霊を使役していたなんて思いもしなかった」
「確かに・・・・・・・ちょっと意外ですよね」
むしろあなたたちのほうが意外なんですけど、と昌浩は想った。
「さて昌浩。手伝いをしてもらおうか」
「わかった」
昌浩と物の怪は雪花のあとをついて屋敷の出口へとむかっていったのであった。