「あの・・・・・・・・」
昌浩は無言で歩き続けるに声をかけた。
は己よりも遥かに背の低い昌浩を見た。
「どこへむかっているんですか」
「京、西のはずれにある私の屋敷だ。私にも色々と準備があるのでな。それに聖域へはそこからでないとはいることができないのだ」
は軽く頭をかいた。
「私たちが守る聖域で最近多くの妖がでるようになってな・・・・・さすがに二人だけじゃムリだから手伝いを晴明に頼んでいたんだ。そうしたらあいつはお前を推薦してきたから・・・・・・」
「俺を?」
「十二神将をつけているな・・・・・・・・・あぁそれとまだちゃんと自己紹介をしていなかった。という。よろしく」
「安倍昌浩です・・・・」
ふと昌浩はのむき出しの腕に目を吸い寄せられた。あたりが暗いからよくわからない。が確かにそこに何かが見えた気がするのだ。
は軽く笑みを口元に浮かべた。
「気になるか、私の腕に何があるか」
「・・・・えと」
は慌てふためいた昌浩を見てくすくすと笑った。
物の怪が昌浩の肩に飛び乗り、の顔を見た。
「お前、晴明に蛇神と呼ばれていたな。まさか・・・」
「なんのことだ?」
「蛇神といえば死を司る神だ。天津神の一人じゃないのか?」
「さぁ、どうだかな?」
はくすりと笑うと目の前へ視線を投じた。昌浩も視線の先を追う。
そこに巨大な門があった。
「ここだ」
「・・・・・・都のはずれにこんなところがあるなんて」
「知らないだろう?ふふっ、そうだろうな」
のあとについて門をくぐる。と耳鳴りがほんの一瞬だけした。
耳を押さえた昌浩をは見る。
「大丈夫か」
「なんとか・・・・・」
「すまないな、ここの空気は霊力の大きいものに影響を与える。おぉそうだ」
はパンパンと二度ほど手を叩いた。静かな暗闇でざわめきが起きる。
「お前たち、しばらくここの空気を乱しておいて貰いたい。私とこいつが屋敷に入るまででいい」
殿・・・?」
でかまわないよ。空気を乱せば少しは楽になる。歩けそうか」
「大丈夫」
「・・・・・・陵雨」
暗闇から一匹の狼が出てきた。昌浩はその体の大きさに驚く。
昌浩の二倍はありそうな大きさだ。
「乗っていくといい。陵雨、昌浩を屋敷まで連れて行ってくれ。あとはが迎えるだろうから」
は・・・」
「私なら大丈夫だ。少し様子も見ておきたいから。食われはしないさ、陵雨は神の使いだから」
「神・・・・・」
昌浩は心配そうにしていたが、が陵雨を招くと昌浩を抱き上げその背に乗せた。
「昌浩、しっかりと掴まっていろよ。よし、いけ!」
陵雨は昌浩と物の怪を背に乗せて走り出した。
はその後姿を見送る。ふと暗闇からもう一匹の狼が姿を見せた。
「飛燕か」
先ほどの漆黒の狼とは違い深紅の毛並みをしていた。
深紅の狼はの足元まで寄ってくると首を垂れた。
「天照と月読に蛇神までが刺客を?」
は狼の報告を聞いてにわかに顔を曇らせた。
「本当か」
狼はうなずく。
は軽く溜息を漏らす。
「仕方ないな・・・・昌浩を呼んだのは失敗だったかね」
力を持ち、数々の妖異たちを統べる彼女にもわからないことがあった。
それは・・・・・

ヒトという生き物のことであった