遥かなる高天原
そこに神々の住まうまほろばの宮があった。
美しい銀の髪を持った青年が宮の最奥へと向かって歩いていた。傍らで美しい色をした蛇が這っている。
「蛇神殿、いかがなさるおつもりですか。あなたの半身は人に、そして私達天津神の最高の息子もまた人に・・・・」
『事態を重くとらえるからこうなるのだよ、月読』
「あなたは軽く見すぎなのです。死を司るあなたの半身ですよ?地上で何かをやらかしたら・・・」
青年は重い溜息をつく。蛇は軽く笑声をこぼした。
『天照が文句を言うのもわかるな。月読、お前は堅苦しい。だから我が半身も逃げるのだ』
「彼女は逃げたのは私のせいでは在りません!」
「月読、何を騒いでいる」
「姉上・・・・・」
「蛇神、お前の半身を見つけた。ついでに息子も・・・」
『すまないな、天照』
紅の瞳を持った女がいた。勾玉を連ねた三連の首飾りをし、紅の衣を着ていた。
先ほどから月読と呼ばれていた青年は軽い溜息を漏らす。天照と呼ばれた女は蛇神と月読を見比べた。
天照と月読はこの国の神であった。蛇神は死を司る神である。
「姉上・・・私としては向かえなどよこしたくないのですか」
「月読、地上が危険だと言ったのはお前だろう」
「ですが蛇神殿には申し訳ありませんが、いささか問題児かと」
『確かに問題児だな。それは私も認めている。が、あれは人に対する思いは人一倍強いぞ』
「強いからこそですよ、蛇神殿。人の宿命は変えることは許されない。彼女が人に愛着を持ったらどうなりますか」
『冥府に人が来なくなるな』
「でしょう?だからこそ・・・・彼女たちを連れ戻さなければいけない。姉上、刺客はいかがなさいましたか」
「何体か送った。がすぐにやられるだろうな」
月読はまた溜息をつく。蛇神は頭をもたげて月読を見た。
『狐の子がおるようだな。二人というところか』
「狐の子・・・・しかも濃いな」
「苦労しますね、二人とも」
月読が人界へ降りて行った者達へ同情の言葉を呟く。
しかし、天照と蛇神ははっと鼻先で笑う。
「そのぐらいの苦労をしてもらわねばならん」
『我らが跡目には必要なことだからな』
本当にこの二人は自分の半身と息子のことを心配しているのか、と月読は考えた。
そして本日何度目になるかわからない溜息をつく。
日本の夜を司る彼にもわからないことがあった。それは・・・・・・・・・


蛇神の化身である娘と天津神の血を引く青年
彼女らの運命はどうなるのか