その悪霊がどこから侵入してきたのかはわからなかった。
陰陽師が数多くいる内裏にたった一匹で・・・・・でもその一匹が強力で・・・・
陰陽師たちは苦戦していた。晴明はいない(邸でのんびりしている)
晴明と同じく能力が高い安倍一族の面々も今陰陽生たちが呼びに行っている。
そしてこの場に一番近いところにいるであろう陰陽師、しかも晴明の右腕といわれる橘も呼びに行っている。

「でか・・・・」
殿!!」

陰陽師たちの顔に希望が宿った。
呆れたような顔をして悪霊を見上げているのは橘だ。

「えっなに、こんなのも調伏できないわけ?本当陰陽寮の格が下がってる証拠だよなぁ・・・・・・」

は棘のある言葉を呟きながらも印を結んだ。

「さっさと倒すべきだ・・・・・・・砕っっ!!」
は微笑んで術を悪霊へと放つ。しかし悪霊は術を跳ね返した。
その跳ね返った術はというと、陰陽生、陰陽師のもとへと激突した。

「悪い悪い」

大して悪びれた様子もなく、は言った。
そのあとはあっという間に終わった。
が宝刀"狭霧丸"で悪霊を一閃のもとに消し去ったのだ。
陰陽生達の尊敬の眼差しがを追う。


「ご苦労、私たちが来る前に調伏してしまうとは・・・・・」

は安倍家の三人に声をかけられていた。

「あははは、お褒めの言葉はいりませんよ。というかできれば陰陽生のことだけどうにかしていてください」

の言葉に三人は首をかしげ、彼女の足元にいる式神に目をむけた。
式神は溜息をついて説明をはじめる。
つまり陰陽生たちのしつけをしなおせ、ということらしい。
という式神の訳に三人は苦笑を漏らした。

「私はこれで失礼しますね。行こう、螢斗」

は三人に背を向けて歩み去ろうとした。無論、今少しばかり怒っている為自分の周りの様子など気がつかない。

"!"
「えっ!?」

螢斗の言葉は少し遅かった。
前から歩いてきた行成にぶつかり、後ろに倒れかけた主を見た螢斗は溜息をついた。
は真っ赤になりながら行成に謝り、立ち上がろうとしてまた足を滑らせる。
は行成の言葉に顔を紅くしながらもハッと天を仰いだ。
安倍家の三人も空を見上げる。
黒い獣が空から行成めがけて振ってきていた。
意識が飛びそうになったの耳に螢斗の叫びが突き刺さる。

「異邦の妖異・・・・・・・」

は行成を逃がし、獣を睨んだ。
螢斗はのそばで人の姿に立ち戻りながら傷の様子を見た。
の肩深くに突き立てられた牙は筋肉までもを貫いたのだ。
相当の痛みであろう。
獣は螢斗の姿を見ると逃げ出した。
螢斗の姿が消えると同時にの体が力を失って倒れこむ。
昌親が駆け寄る前に、別の誰かが抱きとめる。
一人の青年がの体を抱き上げていた。

「安倍の邸でいいな?」

聞きなれた声に三人は驚いた。
彼はの式神で翡乃斗だったのだ。
翡乃斗はを見ると溜息をついた。

「馬鹿なやつだ・・・・・・・・」

呆れたような声音には、しかしどこか安堵したような声音も含まれていた。
翡乃斗はを抱えたまま安倍家に戻って行った。

「父上・・・・といい昌浩といい・・・・・何故あの子達は神に好かれるのでしょう」

昌親がもっともな問いを発した。しかしこの場にその問いに答えられる者はいなかった。