夜半も当に過ぎた都、安倍晴明の邸。
そこに居候している小野家唯一人の子はぱらぱらと暇そうに書物を読んでいた。
傍らには常人には見えることのない獣が二匹まどろんでいる。も小さく欠伸をかみ殺すとそろそろ寝るかと立ち上がった。そのときである。
「、少しいいかの」
そう言って安倍晴明が姿を見せた。は何の用事なのだろうと思いながらもうなずく。
「実は今昌浩が都はずれのあばら屋におる」
「都はずれのって・・・・・あぁあの大髑髏が出てくるとこだ」
「うむ」
「つまりは昌浩を退治に行かせたってわけね?」
「うむ」
「で、用件は?」
「・・・・・・・・おおそうじゃった。実はな、少しばかり昌浩の様子を見てきてもらいたい」
「今から?だったらやだ」
「もともと大髑髏を倒して欲しいといってきたのは行成様なんじゃが・・・・・・」
の動きがその瞬間に止まる。晴明は上手くいったと内心で笑った。
「どうじゃ?行ってはくれんかの」
「え〜〜ねむいからイヤだ」
「・・・・・では行成様には行成様のために働くのはイヤだそうです。そんな娘を妻としても後先よいことはないでしょう、と言わなければならんか」
「うん、きっとあんたならそう言うね、晴明」
も笑顔でそう言い返しながら、部屋の隅に立てかけてある小野家の宝刀「狭霧丸」を手に取った。
「ほら、螢斗、翡乃斗起きて」
“なんだ、・・・・・?”
「出かけるよ」
「どこにだ?」
「大髑髏邸」
はそう言って闇色の狩り衣に着替えると邸から出て行った。式神たちは溜息をついてあとを追う。
「どうせまた晴明にはめられたんだろ?」
「ん〜きっとね」
"いい加減に気がつけ・・・・"
「多分無理だろ」
傍らの式たちの言葉には苦笑した。
大髑髏邸(と名づけられた)の前に立つとはあたりを見回し、手ごろな木を見つけるとのぼっていく。
「おいで、お前たちも」
"・・・・神にむかってあんな言葉遣いができるのはこの世でとあの子供だけだろうな"
「晴明を抜かせばな」
「・・・・・・・」
は下で交わされる会話も知らず、じっと邸を見ていた。時折何かの声が風に乗って届く。
「派手にやってるね〜〜騒音公害だしまくりじゃん」
は邸から響いてくるド派手な物音に苦笑した。
「まぁ昌浩は無事だろうしね」
"仮にも陰陽師だろう?"
「あんな小物に負けていては晴明を抜かせないな」
木の下で交わされる会話には笑みを堪えきれない。確かに彼らの言うことには一理あるのだが・・・・
昌浩は昌浩で頑張っているのだ。笑っては失礼だろう。
とは思いつつもやはり笑ってしまうだった。
やがて物音がやみ、静かな夜が戻ってくる。
「終わったのかな」
「だろうな。帰るか、」
「うん」
そううなずいてが木から飛び降りたときのことだった。
「わー!!」ド――――ンッ!!
「・・・・・・」
しばしの静寂がその場を支配した。は溜息をついて背後を振り返る。
そこにはもうもうと煙をあげる元邸があった。
「・・・・派手にやりすぎたな」
"掘り出しておくか?"
「いいんじゃん?騰蛇もいるんだし」
「わかった」
二匹の式神はうなずくとと同じように邸を見た。
「帰ろうか」
「うむ」
紫はそのまま闇へ紛れ込むように消えた。
その後しばらくして崩壊した邸から一匹の白い物の怪が一人の少年をひきずって埃だらけになりながら出てきた。
いっぽうは安倍の邸へ戻ると馴染みのある顔に出会ったのであった。