わからない気持ち
同じ冥府の匂いがしたからかもしれない

私はなんとなくそいつと一緒にいるようになっていた

「何故お前はここにいるんだ」

「さぁ?」

「さぁって・・・・・・・・お前も冥府の人間か」

「死んでないけどね。まぁそんな感じ。冥府で官吏やってるの。結構有名なんだけど」

「小野官吏か」

「正解。なぁんだ、結構物知りじゃない。黄泉の国にまで名が届いているのね。さすがはじい様」

「冥府の官吏といえば俺たちの間じゃ有名だからな。天上天下大胆不敵唯我独尊な、一族だって」

「・・・・・・・・・・・」

わずかに顔が引きつる。そんなことを言われていたなんて初耳だ

しかも微妙に頭にくる

紫はため息をついた。というかつかずにはいられない

「ねぇ、屍鬼。あんたさ・・・・・・あの宗主とかいうやつに操られていていいわけ?」

「なんでそんなことを聞く?」

「・・・・・・冥府にくれば、もっと楽しいことしてあげるわよ?」

紫はそういって艶やかに微笑んだ

屍鬼は小さな笑みを口元に浮かべると、紫の顎に手をかけた

「たとえば・・・・・?」

「知りたい?」

二人の唇が重なる

紫は唇にはしるチリリとした痛みに涙した

「ちょ・・・・・」

「なんだ?」

「変態」

「・・・・・・お前が誘ってきたんだろう」

「誘った覚えないわ」

「・・・・・・・ふん」

紫はそっと唇に指を持っていった

そこだけが熱く感じる

紫は屍鬼が好きになっていたのかもしれなかった


「・・・・・・・・・・」

紫の瞳から涙が溢れる

なんでなのかわからない

わかるはずもない

「バカ・・・・」

天照の剣が屍鬼の腹部に深く突き刺さる

「なんで、お前が泣く必要がある。お前は、仇をとっただけだろう?」

「知らないよ・・・・わかんないよ、わからないよ・・・・・なんで、なんで、涙が出るのかわからないよ」

「・・・・・・・・・」

紫の涙が頬を伝って落ちていく

震える手が紫の頬に触れた

紫が顔をあげる

口のはしから血を流して屍鬼が微笑んでいた

「お前のこと、嫌いじゃなかった・・・・」

「っ・・・・」

「お前に殺されるなら・・・・・・・・・本望だよ」

天照の剣から漆黒の焔があがる

紫はよろよろと後ろに下がった

何故涙がとまらないのだろう

なんで胸が締め付けられるのだろう

今頃気がついてももう遅い

漆黒の焔は騰蛇の肌を焼き、内側にいる屍鬼を焼き殺す

「・・・・・・っ」

「お前を、愛していた」

紫の悲痛な叫びがこだまする

そして焔は騰蛇の体を残し消えた

屍鬼とともに・・・・