星が溶ける夜
ユウラは正座をして湖のほとりにいた。

何故正座なのかは聞かないでおこう。それは無粋というものだ。

「ユウラ」

背後から声をかければ、銀の髪がゆっくりと動いた。

振り向いた顔は闇に浮かぶほど青白い。瞳がゆっくりと瞬いた。

「ゴウ・・・・」

いつもは穏やかな声は今わずかに震えていた。

「泣きそうな顔だぞ」

隣に座って頬に触れると体がわずかに震えた。頬も冷たい。

「まったく、いつからここにいたんだ」

まだ月見には早い時期である。

ユウラは首をかしげてゴウを見上げた。

「・・・・・考え事をしたかったので、昼間からいたのですが」

昼間って・・・・ゴウは大きくため息をついた。

なにも言えない。

「ゴウ・・・?」

「ユウラ、風邪を引くぞ。まったく、お前は考え事をはじめると時間が経つのを忘れるからな」

ゴウは羽織っていたマントをユウラの体にかけてやった。

ユウラはきょとんとしてゴウを見る。

「風邪を引くなよ、ユウラ」

「ゴウ・・・・・・・ありがとうございます」

ユウラはマントをぎゅっと体に巻きつかせた。嬉しそうに微笑む。

「あったかい・・・・・ゴウのぬくもりがありますね」

「っ!?」

「ゴウ?」

ユウラは顔をそらしたゴウのほうを不思議そうに見た。

少し心配そうな視線も混ざっている。

「私、何か言いましたか・・・・」

「いや・・・」

「じゃぁどこか体調でも」

「違う・・・」

ユウラは泣きそうな顔である。

ゴウはたまらなくなってユウラを抱きしめた。

「ゴウ・・・・・・・・・!?」

「あぁもうっ・・・・・・・・・たく、オレはバカか・・・・」

「なにか・・・・」

「お前に会いたくて、堪らなくて、お前の家にいったら誰もいないから・・・・・・・むちゃくちゃ心配したんだぞ」

「ごっごめんなさい・・・・」

ゴウはそっとユウラの髪をすいた。

地に届くほど長い銀の髪が、力の解放とともに紅に染まることを知っているのはゴウだけだった。

「ずっとこうしていたい。お前が力を解放して傷つくのはみたくない・・・・もう、力を解放するのはやめろ」

ゴウは耳元で囁いた。ユウラはわずかに泣きそうな顔になるが、ゴウには見えない。

「私は・・・もう誰も傷つけたくないんです。私の力はそのためにあるんです」

「お前が・・・・・お前が傷つくたびに、オレはいてもたってもいられなくなるんだ!このままいなくなってしまうんじゃないかって・・・・」

「ゴウ・・・・」

「天使は心臓を抉り取られない以外には死なない。それでも、お前は他の天使よりも治りが遅いんだ。お前の回復を待つ俺の身にもなってくれ・・・・」

ゴウはユウラの体を抱きしめる。

ユウラは涙を零した。ゴウはそれに気がつくと慌てたように体を解放する。

「ごめんなさ・・・・私、ゴウの気持ち知らないで・・・」

「ユウラ・・・・・・」

「ただ、あなたを守ることができればそれでよかった・・・・・あなたが傷つかなければ」

「お前が心配する必要はないよ。オレがお前を守る。そして、傷つかないから」

「ゴウ・・・・」

「安心しろ、ユウラ」

「・・・・・・・・はい」

ゴウはそっとユウラの口付けたのであった。

唇を離したとき、ユウラの青白い顔が真っ赤になっていたことはゆうまでもないことである。