月見酒
今宵は美しい満月でありました
鳳珠様と様は庭園に出て月を見上げておりました

「美しい月夜ですね」

様がそうおっしゃると隣に立たれた鳳珠様もうなずかれます

、酒を持ってきた。一緒にどうだ?」
「いいですね。久しぶりにゆっくりと飲めますわね」

小さな器に酒を注ぎ、様はゆっくりと飲み干されました
ほぅっと息をつき、鳳珠様をあおがれます

「鳳珠も、どうぞ」

様のお酌に鳳珠様もお酒を飲み干されます

「そういえば最近倖斗もかまってやれませんね。翠璃と慧璃に悪い気がしてきますわ」
「三人とも楽しそうに遊んでいたが?」
「それでも私たちは倖斗の親ですわ。あの子、きっと寂しい思いをしているでしょうに・・・・」

鳳珠様は様の肩に腕をまわし、そっと抱きしめます

、一日だけでも主上に休みをもらうといい」
「鳳珠?」
「倖斗が喜ぶ」

鳳珠様のお言葉に様は微笑まれました

「そうですね」



「母上ー!」

邸のほうから少年が一人かけてまいりました
お二人のお子、倖斗様でございます

「倖斗、寝たのではないのですか?」
「いいえ、母上たちのお姿をお見かけしたので、慧璃たちに頼んでつれてきてもらったのです。何をしていたのですか?」
「お月見ですよ、倖斗もやりますか?」

様は倖斗様を抱き上げられ、目線を合わせられます

「はい!慧璃と翠璃もいいですか、母上」
「えぇどうぞ」

倖斗様は天使のような笑顔を浮かべられると様の腕から降り、一目散にそば仕えの青年たちのもとへ走り寄っていかれます
様は隣に立たれる鳳珠様の顔が不機嫌そうになっているのに気がつかれ、そっと微笑まれました

「どうかしましたか、鳳珠」

様は鳳珠様の不機嫌の理由を知っておられるご様子。鳳珠様はさらに不機嫌そうな顔をなされ、様の頬に口付けられました。

「ご自分の息子に妬かれては困りますわ。私はどうすればよいのでしょう?」
「お前は私だけを見ていればいい」
「まっ・・・」
様、鳳珠様・・・・・それ以上はおやめになってください。倖斗様の教育上悪いですから」

そういう声が自分たちだけの世界に入りかけていたお二人の耳に入りました
振り向けば、息子の世話役、二人の養子慧璃と翠璃が倖斗様の目と耳を覆われ立っています
様は小さな笑みをもらされると、倖斗様を抱き上げられました

「ごめんなさい、倖斗。ふふっ、翠璃と慧璃もごめんなさいね」
「いいえ」

二人の手にはお盆にのった茶器とお菓子がのせられています
様と倖斗様、鳳珠様に双子の青年たちは庭園にある庵に落ち着かれました
倖斗様は母上様と父上様の間にお座りになられ嬉しそうになされております

「母上、今日は本当に月がきれいですね」
「そうですね」
「でも母上のほうがきれいだと思います」
「まぁ」

様は倖斗様の素直なお言葉にくすくすと笑われます
やはりそれが面白くないのか、鳳珠様はいささか不機嫌なお顔をされています
それを気配で察した慧璃、翠璃の二人は様に目を向けられました

「どうかしまして、鳳珠?」
「いいや」
「父上、父上も母上がおきれいだと思うでしょう?」

倖斗様のきらきらとした瞳に飲み込まれたかけた鳳珠様は愛息子を抱き上げ、微笑まれました

「そうだな。それには賛成できる」
「鳳珠まで・・・・・・慧璃、翠璃、何か言ってくださいな」
「私たちも同意見です。様はお美しいと思いますよ」
「えぇ。倖斗様も幼いながらにわかっていらっしゃる」

様は軽く苦笑すると、倖斗様を鳳珠様の腕から抱き上げられました

「さぁ倖斗、もう眠りましょう。私たちも戻りますから、おやすみなさい」
「はい、母上」

倖斗様は鳳珠様と様にぺこりとおじぎをなされるとおつきの青年たちとともに一足先に邸へ戻られました
様は微笑を浮かべ、鳳珠様を仰ぎ見られます

「鳳珠、安心してくださいな。私にとって一番大事なのはあなたですから」

倖斗も大事ですがね、と様は言われました
鳳珠様は様を抱き寄せられ、そっと口付けられます

「私もだ、・・・・・」
「・・・・・・鳳珠、私、もう眠いのですが・・・・・」
「ああわかった。戻ろう」
「はい」

お二人は手に手を取り合って邸へと戻られていきます
その仲睦まじいお姿を月はいつまでも明るく照らしていたのでございます