その少女、名を刹那と言った。
産まれて間も無く一族すべてを亡くし、唯一人で育ったのである。
名をつけたのは彼女の友であった十二神将。彼女に名がつけられたのは彼女が生まれて三年経った日のことである。
それまで彼女は獣達に愛され、育てられていた。木の実や野菜などの精進料理を彼女は食べて育ったためか、穢れひとつない可愛らしい少女になった。
だが彼女を育てたのは獣。言葉を知る由もなく彼女は話せなかった。しかし、その身のうちに宿る力は途方もないもので、異界から神を呼び起こした。
「我らを呼んだのはお前か」
呼ばれたのは十二神将。人の思いから産まれた神の末席に連なる存在。
少女は目を丸くして、彼らを見ていた。
「ねぇ名前はなんていうの?」
栗毛の少女がそうたずねた。
「太陰、それはまだ子供だ」
黒曜石に似た瞳を持った女が言う。太陰と呼ばれた少女は刹那の前に降り立った。
「・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
二人はしばしの間互いを見る。
ゆっくりと人の子供のほうが瞬きをした・・・・・・そのときである。
十二神将を霊力の鎖が縛りつけた。驚いた顔をしたのは神将たちである。
無力な子供が末席にいる存在とはいえ神を縛り付けたのだ。"僕"という形によって。
神将たちは彼女の式となった。
「この娘、どうやら獣に育てられたらしいな」
赤い髪をした男が言った。
「そのようだな。屋敷の外に狼たちが群れを成していた」
少年のなりをした者が言った。
「天空、どうするのですか。この子は・・・・・」
「うむ・・・・・」
「このままでは言葉を話すこともできない。私たちが見えるというのならば私達でこの子を育ててはいかがでしょう」
紫苑色の瞳を持った青年が言った。天空と呼ばれる十二神将の長は考えるように目をつぶったが、うなずいた。
「そうだな、このままではこの子供がかわいそうだ」
「それに名前も必要じゃないの?」
「"刹那"というのはいかがでしょう。人の生命は我々に比べて短いものですから・・・・・・・・・」
「よかろう」
少女に名をつけた青年は彼女を抱き上げて微笑んだ。
「あなたは今日から"刹那"です」
少女は軽く首をかしげて青年を見た。
「私たちのことはこれから少しずつ知っていってくださいね」

その出会いから幾年の月日が流れたのだろう。
刹那、と名づけられた少女は言葉を話すことはできないものの美しい少女へと成長していたのであった。