名前で呼んで
ヴォルデモートは珍しく頭を抱えていた。

「きゃーっ!」

ガシャーンッ!!

皿の割れる音と悲鳴が聞こえる。
ヴォルデモートは溜息をつくと台所へ向かった。
案の定、そこにはあたふたしている恋人と足元に散らばる皿のカケラがあった。

「セイ・・・・」
「リッ、リドル。ごめんね、またやっちゃった」
「ヴォルデモートだ」
「だって長いんだもん。昔の名前のほうが呼びやすいし、かっこいい」
「・・・・・・・・」

ヴォルデモートは彼女―セイの言葉を無視して杖を皿に向けた。
途端皿は元通りの形になる。
セイはホッとしたような顔でヴォルデモートを見た。

「ありがとう、リドル」
「ヴォルデモートだ」
「じゃぁヴォル」
「やめろ」
「いいじゃない、別に。減るものじゃないし」

それはそうだが・・・・
ヴォルデモートは一つ溜息をつく。
セイはキョトンとして彼を見た。

「リドル?」

ヴォルデモートはセイの腰を引き寄せた。それが突然のことだったため、セイは転びかけた。
ヴォルデモートはセイの耳元で囁いた。

「好きな女には好きな名で呼んでもらいたいと思うのは当たり前だろう?」
「ちょ・・・・・」
「感じたか?」
「バカッ!」

セイはヴォルデモートを押しのけようとする。
しかし所詮は男と女。力の差は歴然だった。

「離して・・・・・・・」
「ダメだ。俺の名はヴォルデモートだ」
「・・・・・・リドル」
「ヴォルデモート」
「リドル」
「ヴォルデモート」

しばしのあいだ無言の攻防が続いた。
根負けしたのはセイだった。

「わかったわ、ヴォルデモート・・・・・だから離して」
「・・・・・」
「ちょっと、名前で呼んだわ。早く離して・・・・・ご飯の用意しなきゃ」
「・・・・・・・違和感があるな」
「はぁ?!」

ヴォルデモートは首をひねる。

「セイ」
「なんでしょう」
「やはりリドルのままがいい」
「わがまま・・・・・あなた、本当に闇の帝王?」
「お前といる間は普通の人間になれる気がする・・・・・」

そう言ってヴォルデモートはセイに口付けた。

「好きな女には好きな名前で呼んでもらうんじゃないの?」
「訂正する。好きな女に女の好きな名前で呼ばれるほうがいい」
「・・・・・・リドル、愛してる」
「っ////////」
「リドル?」

途端に紅くなるヴォルデモートにセイは首をかしげた。
ヴォルデモートはセイから顔をそらす。

「不意打ちは卑怯だろう、セイ・・・・」
「戦いにおいて不意打ちは必要なものよ、リドル」
「・・・・・ほぅ、では戦いにおいて力の差が大きいということも必要だということを教えておこうか・・・・」
「えっ・・・ちょ、リドル?」
「セイ、今夜は寝かせんからな。覚悟しておけ」
「やっ・・・・・」
「拒否権はない」

ヴォルデモートはセイを放し、自室にむかう。
セイは夜のことを考えて、台所に手をついた。そしてまた皿の割れる音とセイの悲鳴が邸中に響き渡ったと・・・・・・