あの月を奪いたい
初めて彼女を見たのは期末試験の勉強で混む、図書室でだった。
美しい黒髪は背中まで流れ落ちていて、キラキラと輝いていた。

「ルーピン?」
「おーい、リーマス?」
「ルーピン、どうした?」

仲間達が声をかけてくる。僕はその女子生徒から眼を離せなかった。

「おっ、あれはじゃないか」
「シリウス知ってるの?!」
「あぁ。一度だけ付き合ったことがある。でもあいつから振られたな」
「おや、君が振られるなんて珍しいことじゃないか」
「なんでも俺は違ったらしい」
「違う?なにが」
「俺が知るかよ・・・・」

が顔を上げて、僕らのほうを見てきた。
漆黒の瞳と眼が合う。彼女は微笑んだ。

「久し振り、シリウス。一ヶ月前以来ね」
「あの時はお前もこっぴどく振ってくれたよな」
「そうだったかしら」

は僕らを手招きした。そばによると高等呪文の数々が記された本が開かれている。

「そうだ。お前、レイブンクローだから知らないよな。俺の仲間でジェームズ・ポッター、リーマス・ルーピン、ピーター・ペティグリュー」
「知ってるわ。“魔法悪戯仕掛け人”の面々のことを知らなければ、その人ホグワーツ生じゃないもの」

はクスクスと笑っていた。シリウスたちはの近くに座る。僕は躊躇した。
の近くで空いている席は隣だけだったからだ。

「リーマス、座らないのか?」
「あっ・・・」
「座りなさいな。別にとって食べはしないから」

は楽しそうに笑った。僕は悩んだのちの隣に腰掛けた。
は僕に微笑みかけてきた。頬が火照るのを感じた。

「何をしていたの?また悪戯の相談?」
「とりあえず期末の勉強を一分だけしようかと」
「あらあら」

ジェームズの冗談には小さく微笑んだ。
の笑顔はまぶしかった。
それから僕らは何かとと関わることになった。
いや、のほうから関わってくるといったほうが正しいのかもしれない。

「ルーピン、今日は一人なの?」

図書室で本を読んでいたときにが声をかけてきた。
僕は飛び上がらんばかりに驚く。気配が全然しなかったのだから。

「やっやぁ、・・・・・・・うん、シリウスはデート、ジェームズはリリーを追いかけててピーターは体調が悪いんだって」
「そう。ルーピンは丈夫そうだし、好きな人もいなさそうだしね」
「えっ・・・・」

僕は困惑した。僕の好きな人はだったのだ。初めて会ったときから彼女に惹かれていた。

「あっあのさ・・・の好きな人は?」
「私?そうねぇ・・・・・私と同じ悩みを抱えている人なら誰でもいいの」
「不細工でも?」
「顔は二の次よ。私、同じ悩みを持ってる人を助けたいの」
「その・・・・悩みって?」
「・・・・・・・私ね、月が好きなの。私の月になってくれる人がいいの。きっとそれは同じ悩みを抱えている人よ」
「シリウスは違ったの?」
「うん。彼は優しかったけど、悩みを持ってはいなかったもの。あなたは何か持ってる?」

悩みといえばあった。仲間達が知ってること。
でもには知られたくなかった。彼女に知られて嫌われるのがいやだった。

「あなたの悩み、私わかるわ」

の言葉に僕はどきりとした。知っている?
何故・・・・・
は僕の腕に手を触れると袖をまくりあげた。無数の引っかき傷や噛みあとが出てくる。

「・・・・・・・ルーピン、あなたも人狼ね?」
「・・・・・・・・も?」
「・・・・」

はそっと腕をまくりあげる。そこには僕の腕にあるような傷と同じものがあった。

「私の場合は少し変わっていてね。満月を過ぎてから、少しずつ人狼になっていくの。新月のとき、私は完全な人狼になる。ねぇこれって私が月を奪っているみたいじゃない?」
「そうだね・・・・」

僕はそれだけしか言えなかった。なんとなくわかってしまった。
彼女がいつも図書室で一人で本を読んでいる理由を・・・・・・

、僕じゃだめかな・・・・・その、君のそばにいるのに」
「・・・・・・・見つけた」

は微笑むと僕に抱きついてきた。
僕はいきなりのことに眼を白黒させるしかない。

「あなたがいい・・・・・リーマス・ルーピン・・・・・・あなたが好き。やっと見つけた、私だけの月・・・・・」
「僕が君の月になれるのなら、いつでもなるよ、・・・」

そっと口付けたの唇は甘い匂いがした。
本当は僕が月なんかじゃない。、君が僕の月なんだよ・・・・・・