淡い花の香
「鷹通さんに妹?!」 「えぇ。妹とは言っても義妹ですが」 あかねは驚いて鷹通の顔を凝視していた。 「古い知人が夫婦共に病で亡くなり、残された姫君を私が引き取ったのです」 「どんな方なんですか」 「とても学問に興味がある姫ですよ」 鷹通はそう言って誇らしげな笑みを浮かべた。と、そこに藤姫がやってくる。 「鷹通殿、今お邸のほうから使いの方が参りましたわ。なんでも友雅殿がいらしたとか」 「わかりました。それでは神子また」 「鷹通さん、今度妹さんに会わせてください」 「はい」 鷹通は急ぎ足で邸へ戻る。 「友雅殿・・・・・」 「やぁ鷹通。噂の姫君はどちらに?」 「妹に会いにこられたのですか」 微笑みを浮かべてうなずく友雅を見た鷹通は溜息をついた。 座って友雅を見る。 「友雅殿、妹に手を出さないと約束していただけますか?」 「無論」 「・・・・・・」 「疑り深いね」 友雅が苦笑したときである。 「鷹通兄様、お帰りになられましたの?」 「姫、客人ですよ」 「あっ・・・・」 部屋に顔をのぞかせた姫君はうろたえた。まだ幾分幼い感じもするが、鷹通の一つ下なのだという。 「鷹通、せっかく妹君が出迎えたのだからもう少し優しくしてやるべきだと思うが?」 友雅はそう言って姫を見た。ちょうど姫も友雅のほうをむいていて二人の目があった。 深い深い青の瞳だった。友雅は思わず引き込まれそうになる。 「橘少将殿・・・・・?」 「私のことをご存知・・・・?」 「鷹通兄様から何度も聞いていますわ。お初にお目にかかります、と申します」 はにこっと小さく笑みを浮かべた。 友雅はその笑みにしばし心を奪われる。 「、部屋に戻りなさい」 「はい、兄様。では少将殿、ごゆっくり」 は軽く会釈して部屋に戻る。 鷹通は姫が姿を消すと溜息をついた。 「やんちゃな子ですね・・・・・」 「だが、微笑んでいた」 友雅はそう言って鷹通の邸を辞した。 と、牛車に乗ろうとしていた友雅の後ろから鷹通の使いか、男が一人走ってくる。 「橘少将様ですね。姫より文を預かってまいりました」 男は友雅に文を渡すと一礼して去っていく。友雅は僅かに花の香がする文を懐にしまい邸へ戻った。 邸でそれを開くと、ふわっと優しい香があがる。 流麗な字で綴られた手紙を読むにつれ、友雅の口元に笑みが宿る。 "庭にある桜のつぼみが開くように、私の心も開きました。あなたに会いたい" 「ここまで素直に言われてしまうと行かざるをえないな」 鷹通が知れば、二人とも怒られるが忍んで行くなど友雅には朝飯前である。 「さて・・・・」 友雅は筆をとった。