伸ばした手

「ラキ、こんなところで一人、なにやっているんだ」
「別に」

赤茶色の髪を持つ青年天使はゴウから顔を背けた。
ゴウは青年の隣に座る。暗褐色の瞳がゴウをむいた。

「お前たち、なんでオレにしつこくかまう?」
「別に。ただかまいたいからかまうだけだ。それだけだが」
「嘘だろう・・・・・・・お前たちが見ているのは俺じゃない。俺の中の誰かだ」

ゴウは小さく悲しげな笑みを見せるとラキの頭に手を置いた。

「少し、ラキが生まれる前の話をするか」
「なんで」
「いや。そうだ、レイにお茶を入れてもらうのもいいな」
「ゴウ、聞いているの「さぁそうと決まれば行くぞ」

ゴウはラキの言葉を無視して腕を引っ張っていく。
ラキは半ば面倒くさそうな顔をして引っ張られて行った。

「おや、ゴウにラキ。どうしたんですか」
「あぁ。少し昔話でもしようと思ってな」
「そうですか。それはちょうどよかった。シンやガイ、ユダにルカも来ているんですよ」
「皆考えることは一緒だな」
「どうせ天気もいいことですし、湖に行きましょうか」
「あぁ。じゃぁおれとラキは先に行っている」
「わかりました」

ゴウはラキの腕を引いて湖にむかう。
湖面は日の光を反射してキラキラと輝いていた。

「なんでおれなんか連れてきた」
「気持ちいいだろう、ここは」
「・・・・話を聞いているのか、ゴウ」
「あぁ」
「・・・・・・」

ラキは溜息をついてゴウから顔をそらし、湖を見た。

「ゴウ、ラキ」

レイの声がした。振り向けばお弁当を持ったレイやガイたちが手を振っている。
湖のほとりで賑やかなピクニックが行われた。ラキはただ、じっと座って彼らのことを見ているだけだった。

「じゃぁ、行ってきますね」
「俺も行こう」
「はい」

途中シンとユダの姿が消える。

「なぁ、あいつらどこに行ったんだ?」
「・・・・・俺たちの一番の仲間のもとへ・・・今はもう、天界にいないがな」
「追放でもされたか」
「いや」
「ゼウス様に殺されたんですよ、ユウラは」

ラキの瞳が大きく見開かれる。

「有名な"暁の月"か・・・死んだのか・・・・ゼウスに殺されたってどういうことだ!!」

ラキの声に怒りと悲しみが滲み出していた。

「ルシファーが冤罪で地獄へ落とされたことを知って、ゼウスを諌めたんだ。そうしたら逆上したゼウスが・・・・・」

ガイはぎゅっと目をつぶって苦しそうに言った。


「ユウラの心臓をえぐったんだ」

「えっ・・・」
「いくら大天使とはいっても、相手は大神です。敵うはずがなかったんです・・・・」
「俺たちもユウラを守りきれなかった・・・」
「ゼウスは息絶え、胸に大きな穴を開けたユウラの骸を天空城から放り出したんだ」

ラキは息をのんだ。歪んでいても大神。そんなことするはずがないと思っていたのだ。

「必死で腕を伸ばしたのに、ユウラの体は地上に打ち付けられて、そのまま・・消えたんです」

涙を流すレイの肩をルカがそっと抱いた。
ゴウも辛そうな顔でうつむいている。ガイも元気がなかった。

「そんな・・・」
「ラキ・・・・・・ユウラはお前の兄なんだ。だから、今度ゼウスが狙うとすればお前だ」
「私たちはユウラのときのようになってもらいたくないんです」

彼らの真っ直ぐな瞳を見たラキは一瞬だけゼウスに怒りをむけ、そして兄であるユウラに思いをかけた。

「手が届かないなんてこと・・・・そして仲間が死んでいくところなんか見たくないんだ。もう、二度と」
「・・・オレは守られるつもりはない。ゼウスに殺されるなら一太刀ぐらい浴びせてから死ぬさ」
「ラキ!」
「・・・・・オレはお前たちに手を伸ばす。そうしたらつかまえやすいだろう?」
「・・・・」

ラキの笑顔に天使たちはうなずいた。

「もう、手が届かないなんてことないから安心しろよ」




オレは絶対に死なないから