闇に沈む月
くすっとその青年は笑みを見せた
「ユウラ、今日は暇ですか」
「えぇ、暇ですが・・・・・なにか?」
「湖までピクニックに行こうと思うんです。あなたもどうですか?」
「はい。是非一緒に」
ユウラは仲間達について森の中にある湖にやって来た。
「気持ちいいですね」
「なぁなぁユウラ、湖ん中に入ってみようぜ!」
「まだ冷たいと思いますよ」
ユウラはそう忠告するが、ガイはそのまま水の中へ入ってユウラを手招く。
ユウラは溜息をついて湖のほとりに歩いて行った。
「まだ冷たいじゃないですか・・・・・寒くないんですか?」
「全然」
「ガイは寒さを感じないからな」
「ゴウも入ってみろよ。気持ちいいから」
「オレは遠慮しておくよ」
和やかな時が過ぎていく。
そんな彼らの様子を空中から一人の天使が見ていた。
「へぇ・・・・・あれが六聖獣と・・・・・ゼウスのお気に入りか」
青年はふっと笑うと急降下していった。
地面に降り立って六聖獣達に声をかける。
「お前たちが六聖獣?」
「誰だっ!」
「まぁそう警戒するなって。今のところ俺はお前たちを攻撃するつもりはないんだから」
青年はそう言って手を広げた。
「オレはただ頼まれた様子を見に来ただけ。あるやつに言われたんだよ。"暁の月"を見て来いってな」
「っ」
ユウラは口を手で覆った。
「オレの名はラキ。旋風のラキ。よろしく」
「何故・・・あなたがその名を」
「ユウラ?」
「へぇ、ユウラって名前なのか・・・・・だから言っただろう?頼まれたって」
ラキはフッと笑った。
六聖獣たちはユウラを背後にかばい、ラキの前に立つ。
「お前たちも知っているだろ?楽園を追放された天使ぐらい。そう、名は確かルシファー。"明星の君"だっけか」
「あなたは・・・・地獄から来たんですか・・・」
「オレはもともと地獄界の住人。地獄界の守り人ってところかな?」
ラキはそう言って微笑んだ。
「元気だったって伝えておくさ。きっとまた来る。そのときまでに"約束"の返事考えて置けよ」
「まっ・・・・」
「俺を呼び出したいのなら"闇に月が沈んだ時、お前の血を暁に捧げろ"。お前なら此の意味がわかるだろう"暁の月"?」
ユウラはラキをにらんだ。
ラキはフッと笑うと黒い翼を羽ばたかせどこかに姿を消してしまった。
「なんだったんだ、今の・・・・」
ユウラは歯を食いしばって、ラキの消えたほうを見ていた。
「ユウラ、大丈夫ですか?」
「・・・・えぇ。少し懐かしい呼び名を聞いて動揺してしまっただけです」
「確か"暁の月"と・・・・」
「えぇ・・・・暁の月は今にも消えてしまいそうなほど儚く輝いている。あの方は私を見てそういわれた・・・・」
「ユウラ・・」
「二度と・・・聞けないと想っていたのに・・・・・"約束"・・・そうでした。すっかりと忘れてしまっていた・・・大切な約束」
ユウラは六聖獣達に微笑みかけた。
「すみません、今日はこれで帰らせてください。少し一人で考えたいのです」
「送っていこう」
「いいえ、ユダ。心配には及びません」
「だが、顔が青ざめているぞ」
「大丈夫・・・また、楽しい時間を壊してしまいましたね。すみません・・・」
「いいえ、僕らだって・・・ユウラ、これ。作って来たんです。よかったら食べてください」
「ありがとうございます、レイ。それでは・・」
ユウラはレイからバスケットを受け取ると一人で家に戻っていった。
ユウラを見送りながらガイはゴウの服を引っ張った。
「なぁなぁ、ユウラってなんであんなに動揺していたんだ?」
「ガイ、わかってなかったんですか?」
「なにが?」
「あのラキという天使、いえ、天使じゃないですけど、彼はルシファーに頼まれてここにきたって言っていたじゃないですか」
「それはわかるけど」
「ですから・・・・」
「俺たちがまだ少年天使のとき、ユウラは既に青年天使の姿をしていた。クロノス、ゼウスと仕え、だが、本人はルシファーに忠誠を尽くしていたと聞く」
ユダがレイの言葉を遮って言った。
「だがユウラはゼウスに縛られていたからな・・・・ルシファーが反逆したとき、彼を攻撃しなければいけなかったらしい」
「ユウラにとっては辛いことだったでしょうね」
「ユウラはオレに打ち明けた。いつか必ず地獄界へ行ってあの方に謝るのだ、と」
六聖獣の間に沈黙が流れた。
皆が皆、ユウラの悲しげな微笑を思い出す。
「ユウラは・・暁の月なんかじゃない。闇に沈んだ月なんだ・・・・・」
ルカの言葉は的を得ているように思えた。
どこまでも深く堕ちて行け
鎖に縛られたまま私は深く沈んでゆく
ただあなたに会うがためだけに・・・・