落し物?1
安倍晴明と(天空・騰蛇を除く)十二神将は困ったような顔をして部屋の中央に置かれている布に目をやる。「晴明様・・・・・」
天一が声をかける。晴明はなんともいえない顔をする。
「何故これが外に?」
勾陳はそう口に出して言った。確かに、と神将たちはうなづく。何故安倍の邸の前にこんな・・・・・・落し物ともいえないものが・・・・
晴明がそれを拾ったのは内裏から戻ってきたときだった。
「泣き声・・・・・・?」
邸の中から泣き声がする。中に入ってびっくり、思わず飛び上がってしまった。庭の中に布にくるまれたのもが転がっている。拾い上げるとまだ幼い子供が入っていた。まだ息はある。晴明はとりあえず放っておくわけにもいかないから、介抱してやったのだ。
「しかし誰が捨てていったんだ?」
「捨てた、とは限らんだろう」
「それはわからんな・・・・・」
ともかく十二神将もお手上げといった様子だ。晴明は子供の扱い方は知らない。子供もいないのだから。
そういうわけで晴明の命令とあって、十二神将が交代で面倒を見ることになった。
はじめは天一と朱雀だ。天一がそっと抱き上げると赤ん坊は笑った。彼女のことが見えるらしい。
「こりゃ強い見鬼の才を持っているな」
「えぇ・・・・」
赤ん坊は天一の頬に触って、笑った。朱雀が少しばかり乱暴に天一から赤ん坊を取り上げる。
「朱雀・・・・・」
「オレの天貴に触れ・・・・っ!」
朱雀は赤ん坊の顔を見てぎょっとした。丸い大きな瞳にみるみるうちに涙がたまっていくではないか。
朱雀は慌て、天一の顔を見た。天一は小さく微笑むと朱雀の腕から赤ん坊を抱き上げる。
「泣かなくてもいいの。あなたは悪くはないわ」
天一の腕の中に戻ると赤ん坊は涙をおさめた。小さく笑い始めているではないか。
朱雀はほっと安堵すると同時に赤ん坊にイラつきはじめた。
彼の恋人、天一は赤ん坊が可愛いのか、朱雀のことを放っておいている。
「なんか癪に障るな・・・・・・・・・」
朱雀は晴明のところへむかった。彼の主は朱雀の怒った顔を見てだいたい言いたいことを察した。
「なんだ、ヤキモチか。神もヤキモチを妬くとはな」
晴明は苦笑している。
朱雀はどかっと座り込んだ。彼の背から不機嫌オーラが流れてくる。
「天貴をとられた」
「相手はまだ小さな赤子だろう」
「それでもとられた」
「やれやれ・・・・・・・」
晴明は苦笑した。そして苦笑を引っ込める。
「あの赤子・・・・・・不思議な感じがした・・・・普通の人間ではないようだな」
「そうか?オレは別に・・・・・」
晴明は首をかしげた。ごくごく最近どこかで出会ったような・・・・・・・
「そうだ。名前を決めておかないと面倒だな。朱雀、何かいい名はあるか?」
「俺に聞くか・・・・・」
「ん〜そうだ、というのはどうだろう」
「だから俺に聞くなって」
「うん、そうしよう」
晴明は朱雀の言葉など聞いてはいなかった。朱雀は溜息を漏らす。
晴明は朱雀を連れて天一と赤子のところへむかった。