狐の式入り
晴明は一匹の怪我をしている狐を見つけた。晴明を見た狐は請う様な瞳で晴明を見る。薄い青の瞳だった。
「怪我をしているのか・・・・・・・・・」
耳がピクンと動いた。肯定のしるしだろう。
「深いな・・・・・・・・」
右前足に傷跡から瘴気が流れ出してくる。
「妖にやられたのか?」
また耳が動く。
「そうか・・・・・・私の家にくるといい。そこで手当てをしよう」
晴明は足の傷に響かないようにそっと白い体を抱き上げた。狐は小さく鳴いた。
「痛かったか・・?」
晴明は傷に響かないようにそっと運んでいった。邸で手当てをしてやると狐は眠り始めた。
晴明はその日、狐のそばで寝た。
翌日、晴明はいい香りで眼が覚めた。ふと眼をやると狐はいない。
「起きられましたか」
可愛らしい女が顔を見せた。手には朝餉の乗った盆を持っている。
「お前は・・」
「アナタ様に助けられた狐にございます。是非お礼を、と思いまして」
見ると右手に包帯が巻かれていた。
「礼など・・・・」
「いいえ、あなた様に助けられられなければ私は死んでいたでしょう。本当にありがとうございました」
彼女は晴明に頭を下げる。
「わたくし、このご恩は一生忘れませんわ」
「・・・・そうか」
晴明はニッコリと笑った。狐の女もニッコリと微笑む。
「そうだ、名は?名がなければ呼びにくい」
「と仲間内では呼ばれていますわ」
「か・・・・・・いい名だな」
「ありがとうございます」
は小さく微笑んだ。少しだけ晴明が頬を赤らめた。
「、市に行かないか?」
「市・・・・ですか?」
はきょとんとした。市というものがどんなものなのかわからないのだ。
晴明は言葉で説明するよりも実際に見たほうが早いだろうと思い、を連れて市へむかった。
「わぁ・・・・・」
は感嘆したように声をあげる。たくさんの人間の活気で溢れる市は素敵な場所のように思えた。
「どうだ?」
「とても素敵ですね!晴明様!!」
はあちこち動き回る。晴明は薄青の玉飾りのついた櫛を見つけ、それを買った。
「、少し休もう。疲れているだろう?」
「まだ大丈夫ですけど・・・・・・・・晴明様がおっしゃるのなら」
木の下の木陰で2人は休んだ。
「そうだ、」
「はい」
晴明はに櫛を差し出した。は櫛と晴明とを見比べた。
「贈り物だ。つけてみるといい」
「わたくしに・・・・・・・・ですか?」
はおずおずとそれを受け取り、結い上げた髪に刺した。
「・・・・・・・・似合うな」
晴明の言葉には赤くなった。
「あっありがとうございます・・・あのこれ・・・・・・・・・」
「あげるから。毎日つけるといい」
は嬉しそうに笑った。
「ありがとうございます」
晴明はそっとを抱き寄せた。は慌てる。
「・・・・・・・・いつの間にか君のことが愛しくなってきてる・・・・・・」
「晴明様・・・・・・」
「私の・・・・・・・式にならないか?」
「晴明様の・・・・・?わたくしが?」
「あぁ・・・」
は嬉しそうな顔をした。
「・・・・・・・・私でよいのならば・・・・・・・・喜んで」
「ならば契約だ・・・・・・・・」
晴明はそっとの顎をあげると、優しく口付けた。
わたしが堕ちたのは 命を守ってくれた人
何よりも大事なわたしの・・・・ たった一人のご主人様・・・・・