笑って
「こんにちは、晴明様」
「これはこれはではないか。元気そうじゃの」
「はい!」
安倍邸へやってきた少女はニコリとしていった。安倍晴明はウムウムとうなづきながら少女を招き入れる。
「青龍様もこんにちは」
少女は晴明の隣の気配へと頭を下げる。瞬間、長身の影が姿を見せた。
「・・・・・・・」 
は何も言わない青年に笑みをおくった。
「・・・・・」
そのまま青年の姿は消える。晴明は申し訳なさそうに雪花を見た。
「すまんのぅ・・・・青龍には厳しく言っておくから」
「いいえ、晴明様。いいのです。それに私の使命は青龍様を笑わせることですから」
晴明のそばの気配が冷たくなった。
「おいやですか?」
は小さく首をかしげた。無言の気配が肯定を示しているように思える。
「・・・・・・でも諦めません。私は絶対に青龍様を笑わせて見せますわ」
晴明は面白そうに笑った。は張り切っている。
「晴明様、市へ行ってまいります。何か必要なものはおありですか?」
「うむ、干し杏を少しばかり買ってきてもらえんかのぉ」
「わかりました」
「青龍を護衛につけるからな。安心していいぞ」
「ありがとうございます」
は嬉しそうに出かけていった。の後ろには青龍が控えている。は立ち止まると青龍を振り向いた。
「青龍様、何かお食べになりませんか?」
「十二神将は何も食べない」
「そうですか・・」
は干し杏と桃をいくらか買った。そして市をうろうろとする。青龍としてはあまり動かないで貰いたいのが本望だ。
そこいらのガラの悪い連中に捕まれば、ただじゃすまないだろうし・・・・・第一、のことを傷つけたくはない。
もちろん、本人には言わないが、青龍はのことを晴明の次の次くらいには気に入っているのだ。
「青龍様、見てください。綺麗な簪ですねぇ」
は色とりどりの珠飾りのついた簪を見ている。
「これください」
は簪を買うと結っていた髪に指した。そしてくるりと一回りをすると青龍に笑いかける。
「どうですか?似合います?」
似合う、という言葉を青龍は飲み込んだ。言葉ではの美しさは上手く言い表せなかったのだ。
が青龍はそっと髪に触れた。がきょとんとして青龍を見上げる。
「青龍様?」
やがて青龍の手が頭から離れるとは名残惜しそうな顔をした。
「なんだ」
「青龍様に触れていただいて・・・・ちょっとだけ時間が止まればいいな、と」
は笑った。
「私、青龍様の笑顔を見れたらそれでいいんですけどね」
青龍の手がの腰にまわった。
「へっ?」
浮遊感ができ、は眼を見開いた。青龍の跳躍ではいつの間にか屋根の上にいる。
「青龍様?」
「こちらのほうが邸に戻るにははやいだろう」
「でっでも・・・・・・・」
「・・・・・・」
青龍は無言のうちに進んでいく。の髪が風にあおられてさらさらと流れる。
「あの・・・・・」
「笑顔などはない。俺は晴明が主人だが、お前のことも晴明の二の次ぐらいには主人だと思っている」
ははじめ言葉の意味がわからなかったが、理解すると同時に顔を紅くする。
「そっそれは・・・・つまり・・・・・・・その・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
「私のことを好き、と考えてもよろしいのですか?青龍様」
「・・・・・・・勝手にしろ」
「・・・・・・青龍様・・・・・・・・・私も好きです。本当は青龍様の笑顔を見るというのは口実で・・・・・・私はそばにいたいだけなのです」
は真っ赤になりながらも言葉をつむぎだす。
「私は・・・あなたのそばにいてもよろしいですか・・・・・・・」 「・・・・・・・好きにしろ」
は嬉しそうに微笑むと青龍の首に抱きついた。しゃらんと簪の玉飾りが涼しい音をたてた。
には見えなかったが、青龍の頬はほんの少しばかり赤かった。

笑って