七夕夜空
屡螺は一人、縁側に座って空を見上げている 安倍家の庭には笹がおかれていた 色とりどりの紙で飾りつけがなされている もちろん願いごとの書かれた短冊も静かな風に揺れている 「・・・・昌浩?」 ふと背後に声をかければ白い単姿の昌浩が屡螺のもとに歩み寄ってきた 「眠れないのか?」 「屡螺こそ」 「オレはいいの。夜行性だし」 「・・・・・・・・・今日、七夕だろ?だから願い事をずっと考えていたんだ」 「それで眠れないのか」 「うん」 屡螺は小さく笑った。 昌浩がむっとして屡螺を見る。 「悪い悪い。でもお前の願い事なんてもとから一つじゃないか」 「うん。“じい様を超える陰陽師になる”確かにそのとおりなんだけど・・・・」 「なんだ、ほかにも願い事があるのか?」 屡螺の顔を見た昌浩はうなずいた 「欲張りなやつ」 「そういう屡螺の願い事は?」 「オレ?まだ決まってない。他のやつらのは知ってるんだけど・・・・聞く?」 「・・・・・・・・・」 昌浩はうなずいた。 「雪菜が"子供を授かりたい"で紫は"上司に勝つ"彰子は"昌浩が怪我をしないように"だとさ」 昌浩の顔が赤くなった 屡螺はその頭に手を置いて笑う 「いいことじゃないか。ほら、お前の願いは決まっただろう?」 「うん」 昌浩は筆を持ってきて短冊に願いを書き連ねる 屡螺はそれを横目で見て、自分の短冊に目をやった まだ一文字も書かれていない 願いならある 強くなりたい。まだ生きたい でも、強くなるのは自分しだい。生きるのも・・・宿命なのだ 屡螺の願いは殺伐としたもので、はっきりとした形を成してはいない 「屡螺、かけた?」 「全然」 昌浩は他の短冊にもちらちらと目をやっている と、ちょっとだけ驚いたように目を見開いた 「どうした?」 「皆、オレと同じ願いを書いてる」 「大陰陽師になる、か?」 「ううん・・・・・・」 昌浩は屡螺の顔を見て笑顔になった 「屡螺ともっといたいって」 「・・・・・・・・・」 今度は屡螺が驚く番だった 目を丸くして、まじまじと昌浩を見つめる 昌浩はそれを気にせず、よかったね、と言って笑う 「願いごと、聞き届けてくれるよね、屡螺」 「・・・・・・・・・」 屡螺は一瞬だけ悲しそうな顔をしたが、うなずいた 「オレの命が続く限り・・・・」 願いはこれにしよう 屡螺は思った 自分の命の最後の一滴が流れ落ちるまで、彼のそばにいてくれるものたちとすごせるように