一度だけ螢斗と翡乃斗が風邪を引いた時があった(神さまも風邪を引くと始めて知ったとき)
そのとき護衛についてもらったのが青龍だ(語り部:安倍昌浩)
「ねぇ青龍。あなた、珍しく晴明のそばから離れたのね」
「誰のせいだと思っている」
「あっもしかしてうちの式神?ならしょうがないわよ。二人とも珍しく体調を崩したんだから」
「神が体調を崩していいのか」
「あっそれ私も思った。意外よね〜体だけは丈夫なあの二人が風邪よ?人間っぽいわね」
「お前と暮らしていれば否応にもそうなる」
「どういう意味よ・・・」
「さぁな」
紫はむっときて青龍の長い髪を引っ張った。
「っ」
青龍は突然の痛みに顔をしかめる。紫はしてやったりという顔をしていた。
プツンと青龍の額に青筋がたつ。けらけらと紫は笑った。
「青龍って楽しい」
「お前、殺されたいらしいな」
「あれ〜いいの?神将は人を傷つけちゃいけないんだぞ?」
「・・・・・・・・」
青龍は武器である大鎌を手に持ちながら怒りに震えている。紫はまだ笑い続ける。
「青龍も可愛いところあるんだね」
「はっ?」
「怒ってる顔ばっかりじゃなくて、もっとほかの表情もみたいな」
紫はそう言って傍らに立つ青龍の足を払う。紫の一言に呆然としていた青龍はよけきれず、しりもちをつく。
紫は青龍を立たせないように、その体の上に乗った。はたから見れば青龍を紫が押し倒しているようなかっこうに見えることだろう。というか実際そうだ。
「可愛がってあげるねvv青龍・・・・・・」
「紫、お前・・・・・・・」
青龍は眉をしかめた。
紫はクスリと笑って青龍の頬に手を滑らせる。安倍家の人間がここを通れば即作戦は失敗なのだが、そう上手くはいかないものなのだ。
紫の居候している場所は安倍家の庭に作られた離れ。そこにやってくる者などいないのだから。時たま昌浩が遊びに来るが残念なことに今日は都へ彰子とともに出ているのだ。
「酒臭い」
青龍はそう言った。
紫はきょとんとして青龍を見る。
「お前、何を飲んだ」
「何って・・・・・・台所にあった瓶のお水」
「・・・・・・・・それは晴明が使う酒だ・・・・・・」
どうりでなんだかおかしいと思ったのだ。この紫が神将を押し倒すなどするわけがないのだから。
酒に弱いらしい彼女は相当の量を飲んだのであろう、ほんのりと頬が染まり、艶やかだった。
「お酒なんか呑んでないよ。うん、ぜったい」
「どこからその自信が出てくるんだ・・・・・・」
「えっ?だってそうでしょ」
話が噛みあわない、と青龍は頭を抱えた。仕方なしに紫を気絶させ、褥に横たわらせる。
すやすやと寝息を立てる彼女は面倒のかかる子供だ。
「青龍、どうした」
彼女の式神が一人声をかけてくる。青龍はさめざめとした、その視線だけでも人を射殺せそうな瞳を彼にむけた。
軽く熱があるのか少し顔が赤い。
「二度とこいつを台所に近づけるな」
「はて。何があったんだ?」
「酒飲んだんだ」
「なるほど。で、酔っ払って押し倒されでもしたか、青龍?」
「なんでわかる・・・・・」
「無論、何度もされているからだ。そういうときは好きにさせておくのが一番はやい」
「好きにさせておいて大丈夫なのか」
「あぁ。そのあとですぐに気絶する」
「・・・・・・・・」
青龍は深い溜息をついた。
そして二度と紫の護衛などにつくものかと心に誓ったのであった。
結論
・・・・・・何にも覚えてません
あっでも螢斗が言うにはお酒が抜けきるまで私のそばにいてくれたらしい。
意外と優しいんだね、青龍は