やっぱりお兄ちゃんですから
「あっ兄上」「やぁ我が弟よ」
「お久し振りです」
「よぉ、成親、昌親、元気そうだな」
「騰蛇殿もお元気そうで」
賑やかな声が安倍家に響いた。
安倍昌浩の上の兄二人は既に結婚して家を出ている。
そして今日久し振りに家に戻ってきたのだ。
昌浩は嬉しそうに出迎えた。
バタバタと邸の奥から走ってくる足音が聞こえる。それを聞いた途端、成親と昌親の顔が嬉しそうにほころんだ。
「成兄、昌兄!」
「おぉ、!」
成親たちの元へやってきたのは朗らかな笑顔の少女だった。
年は昌浩よりもいくつか年上。
少女は二人の元に飛び込んだ。
「久し振りっ!会いたかったぁ」
「、元気そうだな」
「うん!」
成親が少女の頭に手を置いた。
「昌兄!!」
「、元気そうですね」
昌親も優しげな笑みを浮かべている。
少女は昌浩の姉で二人の妹だ。
「戻ってくるなら教えてくれても良かったのに」
は少し不満そうに呟いた。
成親はすまんすまんと頭をかいて、謝った。
昌親も同じく。智香は二人が誤ったのを見ると怒った顔から一転、また嬉しそうに笑った。
「でも会えてよかった!」
「俺たちもだ。のことを心配してるからな」
昌浩は兄二人の妹馬鹿(昌浩自身にとっては姉だが)を見て唖然とした。
傍らの物の怪は既に慣れた様子で三人の様子を見ていた。
「俺には滅多にあんな楽しそうな笑顔は見せてくれないのに」
「は成親と昌親を心から信頼しているからな・・・・・・あのときから」
「あの時?」
物の怪はそうだ、というようにうなづいた。
「お前がまだ生まれる前の話だ。幼かったが勝手に邸の外へ出て、妖に襲われた」
物の怪は屈託笑うに目を向けた。
成親と昌親とともに楽しそうに笑っている。
「妖に襲い掛かられた智香を守ったのが、陰陽の術を覚えたてのあの二人だったんだ。傷を受けながらも自分を守る兄に惚れたそうだ。ちなみにこれは全部本人が話していたことだからな」
「はぁ〜なんかすごいことがあったんだね、姉」
「そのおかげでたくましく育ったんだがな」
「、どうだ?陰陽師の修行は」
「中々進んでるよ。じい様にも先が楽しみだッて言われた」
「星読みは?智香が得意なやつ」
「昌兄に教えてもらったんだもん。大得意。今でもちゃんと毎夜見てるよ」
「ほぉ」
「ねぇ成兄、毎日内裏で追いかけられてるって本当?」
の問いに成親は飲んでいた茶を噴出した。
昌親はクスリと笑みをこぼす。
「紅蓮から聞いたよ。だめじゃない。暦博士ともあろう成兄が迷惑をかけちゃ」
「ぐっ・・・・・・」
「兄上、もこう言ってますし、たまにはちゃんとお仕事をなさったらどうですか?」
「うぅ・・・・・・」
は成親の首に抱きついた。
「昌浩のお手本にならなきゃだめよ。も頑張って勉強してるんだから」
「はいはい」
「は一生懸命ですね」
「うん!いつかじい様みたいな陰陽師になるんだ」
「楽しみにしてますよ」
「うん!」
昌浩は兄と戯れるを見て呟いた。それを聞いた物の怪は、がんばれというように白い尾で昌浩の肩を一度だけ叩いた。
「やっぱり昌親兄上と成親兄上にはかなわないや・・・・」