夕焼け色
私の恋人は人にあらず。されど私は恋するのだ。「気持ちい〜」
私、はただいま安倍晴明様のお邸に居候をしております・・・・・・・まぁわけありなもので・・・・
「ねぇ、六合。どこかに出かけてもいいかな?」
私の背後には黄褐色の瞳と鳶色の髪を持つ青年が立っていた。人間ではない。神、だ。
が神とはいっても、天照大御神とか月読命とか、高於神とかそういう高位の神ではない。
十二神将・・・神の末席に連なる神だ。
「貴船に行きたいな。ねぇどう?お散歩」
私の護衛を主人である晴明様からおおせつかった彼、六合は無口なもので・・・・あまり話してはくれない。
でも私はそれでもかまわない。彼のそばにいることができれば。
「晴明様に聞いてこようかな」
私は晴明様の部屋へ行った。晴明様はいつも難しい書物を読んでいる。私も一度見たことはあるけれど、わからない文字ばかりでさっぱりだった。
「晴明様」
「・・・・・どうした?」
「貴船へ散歩でもしに行こうと思います」
「貴船か・・・・・しかしちとばかり遠いぞ?白虎に運んでもらうか?」
「えっと・・・・・歩いて行きたいのですが・・・・・・・六合もいるし、心配ないかと・・・・・」
「六合・・・・・・」
晴明様は私の背後にいる六合を見やり、一つうなづいた。六合は小さく溜息をつく。
「六合が貴船まで連れて行くからの。なるべく早く帰ってくるのじゃぞ」
「はい。では、行ってまいります」
お菓子を持って六合と一緒に邸を出ると、晴明様の唯一の後継で私の幼馴染の昌浩がちょうど内裏から戻ってきた。
傍らには白い体躯の物の怪も。彼もまた十二神将の一人らしい。でも私は知らない。
「あれ?、何処かに行くの?」
「うん、ちょっと貴船まで散歩に」
「貴船って・・・・・・歩いたら丸一日かかるよ」
「大丈夫、六合に連れて行ってもらうから」
「・・・・・・・」
昌浩は私の背後を見、納得したように一つうなづいた。
「気をつけてね」
「うん、ありがと」
昌浩が邸の中に入ったのを見届けると六合が顕現した。私の腰に手を回し、横抱きにする。私は少し頬が火照るのを感じた。
「行くぞ」
「うん」
六合の霊布にくるまれた私は見鬼の才がない人には見えない。私がうなづくと六合は駆けはじめる。
周りの景色がものすごいスピードで後ろに下がっていく。うぅ・・・・酔いそう。
六合は酔いそうになっている私に気がついたらしい。スピードを落とした。
「大丈夫か?」
「う・・・・・・・」
「・・・」
六合は黙ったまま私の背中をさすっていた。
私はこれ幸いとばかりに六合によりかかった。六合は表情の乏しい目で私を見ている。
「六合・・・・・・大好き」
「・・・・」
「迷惑?」
顔を上げて六合を見たけれど、彼は相変わらず何を考えているのかわからない。
「・・・・・・・・・・」
ギュっと六合にしがみつく。
「大好き・・・・あなたが神と知っていても私は諦めない・・・」
背中に腕が回ってきて抱きしめられた。
それが六合の返事であることに、私はしばらく経ってから気がついた。
「六合・・・・・・?」
「、お前はいつかオレを一人にする。晴明もそうだ」
「私と晴明様は同列なの?」
六合は少し黙ってからまた口を開いた。
「いや・・・・のほうが少し上かもしれない」
もう一度見た六合の瞳は言葉よりも多くのものを語っているように見えた(気がする)
六合は私の額に軽く唇を押し付けた。体温がいっきに上昇するのを感じた。
「りりり・・・・六合?」
「のほうが大事だ・・・・・・・・・・」
珍しく饒舌になっているな、と関係のないことを思ってしまった。
そして自分もなんだかおかしいと思ってしまったのだ。自分から六合に・・・・・・・・・
「六合・・・・ずっとそばにいて・・・・・・・」
「・・・・・・・お前がいなくなったら俺はどうすればいい?」
「・・・・・・・・・・じゃぁ冥府の官吏に頼んでずっと六合のそばにいる」
「それはさすがに・・・・・」
私はギュっと六合に抱きついた。
「でも・・・・・・でも今は私たちにある時間いっぱいいっぱいまで・・・・・・一緒にいようね」
そして私はやっとそこで思い出した。貴船に行く途中だったことを。
六合も忘れていたらしい。慌てだした私を見て、ここまで来た用事を思い出す。
「行くか?」
「うん」
そして六合は私をまだ抱いて走り始める。
もう陽は沈みかけていた。そっと六合の顔を見上げる。
夕日に照らされた顔がまた美しくって・・・・そして・・・・・・・
私の想いもまた夕日に照らされて輝いていることに気がついた。六合という名の優しい夕日に・・・・・・・・