「・・・・・・・本当に紅家ですか」


案内された部屋を見回しながらは溜息とともに言う。
今この邸の主は一人の家人に使いを持たせ、自分はどこかに消えている。


「紅家嫡男の家とは到底思えませんわ・・・・・」


の言葉に霄太師も苦笑する。
邸の内部はいたるところの塗装がはげ、崩れている。



「ですが確かに紅家の家なのですね・・・・・」
「うむ」
「・・・・・・・嫡男の娘ですか・・・そうなると長姫になりますね・・」
「うむ」
「・・・・・・・霄、先ほどからうむとしか言ってませんが」
「うむ」
「・・・・・・・ちゃんと話を聞いていますか」
「聞いておる」
「失礼します」


と霄太師の目が部屋の入り口へとうつった。
二人が話しているところへ紅邵可がやってくる。は慌てて立ち上がったが、そのままにという邵可の言葉に腰掛けたままになった。

「ようこそ霄太師、まぁおくつろぎください」
「すまんの、いきなり押しかけて」
「いえいえ」

邵可はを見た。はどきりとする。

「・・・・・・なにか?」
「いえ・・・・私の知っている者に似ていて」
「そうですか」


一瞬、の脳裏を一人の青年がよぎった。
が、直ぐに考えを打ち消す。既に彼は流罪となったのだ。
このような場所にいるはずがない。

は軽く頭を振って考えを打ち消した。

「さて姫は・・・・・」
「もうそろそろ来ると想われます」


しばらく無言の時が流れた。
は勧められた水を丁寧に断り、気配を探る。なんともいえないのが悲しい・・・・紅家ならばもっと豪華だと思っていたのだが。

やがてそのときは訪れた。

「秀麗様、戻りました」

そう言った家人のあと、姫が、紅秀麗が入ってきた。

「秀麗、ただいま戻りました。霄太師におかれましては、此度の私の留守、まことに申し訳なく思っております。長らくお待たせいたしましたこと、深くお詫び申し上げます。さしたるもてなしもできませんが、どうかごゆるりとおくつろぎくださいませ」

秀麗の一挙一動を見守っていた二人はやがて視線を交差させるとうなずいた。
がその場に膝をついて目上の者に対する正式な礼をとった。

「お初にお目にかかります、秀麗姫。私の名は蘭華。後宮そして主上に仕える女官の長でございます。実はおりいってあなたに頼みごとがあってまいりました。そちらの家人の方にも」

ゆっくりとは目を上げる。
秀麗はに見惚れた。整った鼻梁、美しい浅葱色の髪、白い肌にはえる紅の唇・・・・彼女を形作るすべてが美しかった。

「どうか主上の后として後宮に入っていただけないでしょうか?」
、それではいささか直球過ぎはしないか?」
「隠していても無駄です。褒賞は霄太師にお聞きください」

霄太師は軽く髭を撫で付けるとしわくちゃの手を開いて秀麗の前に差し出した。

「上手くいった暁には褒章としてこれだけ出そう」
「いかほどですか、銅五十両?銅五百両?ま、まさか銀五両とか」

は二人を見比べる。霄太師はまだ得意げに笑っている。

「・・・・・」


秀麗の喉がごくりと動くと同時に、霄太師は目をくわっと見開いた。


「金五百両じゃーーーっ!」
「・・・・・・・やりますっ!なんでも、おまかせください」


そのときは思った。ちゃんと仕事内容を聞いていたのかな・・・・と。