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黄家当主鳳珠の妻、黄の朝は忙しい。
夫と自分、それから12になったばかりの子、倖斗の朝餉を作ることから始まる。

「倖斗、まだ寝ているのですか・・・・・」
「奥方様・・・・」
「はぁっ・・・倖斗、起きなさい」
「ん・・・母上」
「起きましたか。いい加減夜更かしをするのはおやめなさい」
「はぁい」

倖斗はねむい目をこすりこすり、朝餉の席へ向かっていく。
は苦笑しつつ自室に戻ると髪を結い上げ、服を着替える。

「鳳珠、こちらの仕度は整いましたが・・・」
「直ぐに行く」

夫の部屋でそう会話を交わし、二人は宮廷へと向かう。
夫は戸部へ、は主上の部屋へとむかう。

「主上・・・・・・」

部屋の惨状を見て蘭華は溜息をついた。
卓の周りは書簡で埋もれていた。はそれを簡単にまとめると、主上が寝ているであろう部屋にむかう。


「主上・・・・・・」


語尾に軽く怒りを込めて部屋に入る。
んぅ、と小さな声が寝台であがる。まだ完全には抜け切っていないであろう眠気を覚まさせるためには茶を淹れて来た。


「主上、起きてください。既に朝ですよ」
「・・・・・・・蘭華か」
「また昨晩も侍官とともに過ごしたのですか」


呆れたようにたずねると主上はうなずく。
一瞬この頭に茶をぶちまけてやろうかともは思ったがそこは理性で歯止めをかけた。
主上に茶を渡しながらは言う。仕事が山積みですよ、と。
そして逃げようとする主上を捕まえると書簡を持って外に出た。



「で、何故ここでやるのだ」
「あなたを見張りやすいからです」
「・・・・・・戸部の前ではないか」
「それがなにか?」
「・・・・・・・・・は戸部尚書のことをそこまで愛しているのか」
「一度死んでみますか、主上」


の額に青筋が立った。主上はそれに気がつかずに書簡をまとめていく。



「・・・・・・・主上、やはり死にたいようですね」
「いっいや・・・・」



、主上」



突如として背後から掛けられた声にと主上は顔を上げた。
そこに朝廷三師のひとり、霄太師がいた。

「霄太師・・・・どうかなさいましたか?」
「お勉強ですかな?」
に仕事をやれといわれて捕まっているのだ」
「当たり前です。第一あなたが遊んでおられるからこうなるのでしょう。やることさっさとやれば何してもかまいませんよ」


の言葉に霄太師は笑みをこぼした。


「そうじゃ。おぬしにちとばかり話がある。付き合ってはくれんかの」
「別にかまいませんが・・・・」


はちらりと主上のほうを見た。


「余なら一人でもできるぞ」
「いえ、それはわかっています。ただ逃げないかな、と」
「にっ逃げるわけがないだろう!!(の制裁が怖いし)」
「本当ですか?」


は疑いのこもった眼差しで主上を見る。
主上はそれこそ、首のねじが緩んだ人形のようにがくがくと首を縦に振った。
はとりあえず主上の言葉を信じることに決めた。


「わかりました。では主上、またのちほど」

と霄太師が姿を消すと主上は机に突っ伏した。
ひらひらとその上に桜の花が舞い落ちる。

「桜か・・・・・姉上や兄上とともによく過ごしたな・・・」


それは今はもう手に入らない至福の時・・・・・




「それで何か用ですか?」
「うむ実は・・主上があのままでは国が成り立たん。わしらは主上に妃をつけることにした」
「妃?あの男色家にですか。無謀すぎますわ。第一そこいらの貴族相手ではあの方はよけいにだめになります」
「そこはちゃんと考えてある」
「はっ?」
「実はな・・・・・」

紅家嫡男の長姫だ。



の瞳がすっと細まった。


「どうじゃ?」
「悪くはありませんね。ですが・・・・誰がそれを伝えに行くのですか」
「もちろんわしじゃ。それと、お主もな」
「やはり・・・・・・・仕方ないですね、この国のためです。ついていきますわ」


の言葉に霄太師は満足そうにうなずいた。
はその後主上にしばらく席を外すことを伝えに行った。
霄は企みを内に秘めた目でその後姿を追っていた。


時は緩やかに流れ続けていく