雨の音
雨が降っている。ラキは溜息をついてカーテンを閉めた。
外を見る気にもなれない。いったいあの馬鹿兄はどこに消えたのだ。

「ラキ、いたのか」
『いねぇ』

電話口から聞こえてくる不機嫌最高潮といったラキの声音にキラは苦笑を漏らした。
どうやら彼の兄はまた雨にあたりに行っているらしい。雨の時季になるといつもだ。
しかも恋人にも友人たちにも連絡なしというから性質が悪い。

『あぁもうっ、シンッさっさと探してきてくれよーーー』
「五月蝿い。耳元でわめくな」

第一ラキの兄の恋人であるシンは朝からずっと探しに行っているのだ。それで文句を言われる筋合いはないように思える。

のことだ。あまり心配する必要はないように思えるが?」
『いいや、キラ。を甘く見るな。あれは雨が降っていればいつまでだって雨に当たってるぞ。そして挙句の果てに風邪を引く』

さすがは双子の弟、ラキである。およそ正確にのことを分析できるのは彼だけではないだろうか。
他の誰も、に関してだけは分析できない。というかしたくない。

『でも意外とシンってに関しては勘が働くよな』

確かにそうかもしれない、とキラはうなずいた。

・・・・いったいどこにいるんですか」

シンは一人、傘もささず、雨の中の姿を探して走り回っていた。
朝からずっと雨の中を走り回っているためか、体温が極端に低い。これではを見つける前に倒れてしまいそうだ。
ふと、森の木々の間に淡い紫色の髪を見た。シンはそちらへ走っていく。ただの幻だったのかもしれない。だが、シンはそちらにがいるような気がしてならなかった。
しばらく走ると森の中央の広場にの姿を見つけた。じっと立って雨に濡れている。

ッ!」

そう大声で名を呼ぶとがシンを見た。フワリと笑ってくれるが、シンとしては笑うよりもまず先に謝ってほしい。

「また朝から雨に当たって・・・・・・こんなに、濡れてますよ」
「ボクを探しに来たのか、シン?」
「当たり前でしょう。ラキも心配してますよ」
「シンは?」
「えっ」
「シンは心配してくれた?」
「当たり前でしょう。、戻りましょう。このままでは風邪を引いてしまいます」

濡れないようにと注意して持ってきたタオルでの髪を拭く。紫色の髪が雨に濡れて艶やかに光った。
はそっとシンの手からタオルを取ると、シンの頭を拭いた。

「ボクは平気。シンのほうこそ風邪を引くよ」
「私は・・・・・・・」
「シンが風邪を引くと心配になる。だから、風邪を引かないで」

「さぁ戻ろう。もう、満足だよ」

シンは不安そうな顔でカルを見た。はシンを安心させるような笑みを浮かべる。

「もう、雨の中外に出て行かないって約束してくれますか」
「そうだね。多分、もう行かないと想うよ」
「そうですか」

シンはホッとした様子である。は小さな笑みをこぼした。

「もう、雨が教えてくれたから」
「なにを、ですか」
「ボクを見つけてくれる人を」

はにこりと微笑むとシンを抱き締めた。

「シンがいてくれる。だから、ボクはきっともう雨に攫われない」
・・・・・・」
「シン、体が冷たいね。帰ったら一緒にお風呂に入ろうか」
「誰のせいで・・・・・」

はシンの体を抱きあげた。間近で見るの微笑みにシンは頬を赤らめる。
はそっとシンの額に唇を落とした。

「シン、愛してるよ」

雨に濡れて微笑むの姿は直視できないほど美しかった。
そして後日、シンとは二人そろって風邪を引いたという。
呆れたようにキラにそう話すラキの姿が見かけられたのであった。