その名は
「嫌いなもの、か・・・」読んでいた本から顔をあげ、は呟いた。目の前の友人たちはうなずく。
本を閉じ、その背表紙を隣でぐーすか寝息をたてているラキの頭に振り落とす。
・・・・・さすがは『現代殺人百科』である。
「あぁ、ってなんでも好きって感じがするからな」
「それは物好きという言葉も含まれたりするのか、ゴウ」
「物好き?の場合は好き嫌いをしない、って感じでしょう」
「・・・・・・嫌いなもの・・・・・特にないように思えるけど」
「探してみてくれよ、俺たちすげぇ気になるんだぜ」
ガイに言われては思案するが、ないものはない。
食事に関してもアレルギーもないから、出たものは食べるし、虫が嫌いだとかもない。
「探してみてくれと言われても、ないものはない・・・・・」
「が嫌いなもの?シヴァ、じゃないの」
今まで黙っていたの幼馴染ラキが口を出した。頭の大きなたんこぶは目に入れないようにしておこう。
ゴウたちの瞳がラキへむけられた。
「シヴァが?」
「確かに好きにはなれないけどさー、だってシヴァと話してるじゃん」
「そりゃだから、嫌いなものでも拒まない。えっとなんて言うんだけっけ、猿を拒まず、王を拒まず?」
「・・・・なんですか、それ・・・・」
「去るもの追わず、来るもの拒まず、ですよ。ユダのモットーみたいなものでしょう」
「あぁそれそれ」
「ラキ、前々から思っていたけどお前の現代文の点数はどうかと思うぞ?」
お説教モードに入ったをレイとガイが無理やり止めた。
さり気なく話をそらされてはたまったものではない。
「で、何故シヴァなんですか、ラキ」
「ほら、おんなじ人は嫌いってやつ」
は思いっきり大きな溜息をついた。そんなの代わりに今度は博識なシンが説明する。
「同属嫌悪、ですね。でもシヴァとは同属には思えませんよ」
「・・・・・・」
さすがは(ユダをめぐる)ライバルなだけあって、辛口評価である。
は机に肘をついて顎を乗せた。こうなったら白状するしかないのかもしれない。
「いやなんだよ」
「いや?」
「シヴァを見てるとお前らと出会う前の自分を見ているようで、歯がゆくて、面白くなくて、それに・・・・・どうしても気になるんだ」
「・・・・」
「あぁもう、俺らしくない。ちょっと頭冷やしてくる。次の時間までには戻るから」
はそう言うと図書室から出て行ってしまった。ゴウはラキを見た。ラキは小さな笑みを浮かべている。
「なぁ、シン。あいつの考えに名前をつけるとしたら何がいい?」
「そうですねぇ・・・・」
シンはいい言葉を見つけたのか、ポンと手を打った。
「では・・・」
はむしゃくしゃする気持ちを抑えようと中庭に来ていた。が、中庭にいた人影に気がつくと余計にむしゃくしゃした。
彼が木陰からユダを見ているからなのかもしれない。そんなに気にかけるのならば、話しかければいいのにと思う。
「シヴァ、何してるんだよ」
「わわっ!?!!」
「俺だけど、なんだよ」
「なんでここに」
「考え事をしていたらむしゃくしゃしてきたんだ」
「珍しいね、がそう想うなんて」
の我慢がついに吹っ切れた。シヴァの両腕をつかみ、木の幹に体を押し付けた。
痛みに顔を歪めるシヴァには顔を近づける。
「誰のせいだと思ってるんだ?」
「えっ」
「お前のせいだよ、シヴァ。お前を見てるとどうしてもいらいらするんだ。特にユダを見ているときのお前を見かけると」
シヴァの顔が赤くなる。は余計にいらいらしてきた。
自分らしくない。
「本当にむかつく。なんで、お前を見るたびに・・・・」
「、ボクがユダと話すために見てると思ってる?ボクが見てるのはユダじゃないよ」
「ユダじゃない?じゃぁ誰なんだ」
「・・・あなただよ。ユダの隣に立っているあなただよ」
は度肝を抜かれたような顔をしてシヴァを見た。
シヴァは微かな笑みを浮かべる。
「みんなの中心にいて、笑っているあなたをずっと見てたんだ。ずっと、好きだったよ、」
「なっ・・・・・・」
今度はが赤くなる番だった。シヴァはの腕を振りほどくと、その頬に手を当てた。
「が同じ気持ちって知って、僕今とっても嬉しいよ」
「恋、というのはどうでしょう?」
シンの言葉に皆納得したようである。
ただ一人、本人であるだけを除いては。