あなたに似合う天使
ユウラはを神官にすべきではなかったと後悔した。これほどまでに騒がしい神殿は初めてだ。
「ユウラ、なんとかならんのか」
「恐れながらゼウス様、とを神官にしろと申したのはあなたです」
ゼウスは言葉につまる。思い当たる節がないこともない。
が、ゼウスが何か言い返す前にユウラは謁見の間からいなくなっていた。
パンドラはを神官にすべきではなかったとユウラを恨んだ。
ここまで騒がしい神殿はパンドラが神官になって以来始めてである。
「、あなたはまたものを壊して・・・・」
「ごめん」
本人としても悪気はないのだろう。
ただ努力が空回りしてしまうだけだ。
きっとそうに違いない。
・・・・そうと信じよう。
「ホラ、いつまでもこんなところに隠れていないで、ユウラ様に謝りに行きましょう」
はかすかにうなずいて立ち上がる。
いったいどのくらいの時間こんな暗いところにいたのだろう。
体は冷え切り、頭はほこりをかぶっている。
「ユウラ様、をつれてまいりました」
「ご苦労様です、パンドラ」
「あの・・・・」
「どうしたました?」
「にも悪気はないはずです。ですから、そんなに怒らないでいただけますか」
ユウラは目を丸くする。
パンドラの隣にいるもしかり。
やがてユウラはくすくすと笑い出した。
「わかりました。今回はあなたに免じてへの罰はなしにしましょう。、あなたはここに残りなさい。パンドラ、あなたは仕事に戻って」
「はい」
パンドラは外に出て行く。
ユウラは笑いをおさめるとを見た。
「あなたはこんなにも愛されているのですから、いい加減こんなおふざけはやめたらどうです」
「パンドラが慌てる姿が可愛くてつい」
「そのうちに愛想をつかされますよ」
「ひどいなぁ」
ユウラはを見た。
はその気になれば、神官長にだってなることができる。
ただ本人にその気がないだけで。
「、パンドラが好きですか」
「とても」
「まじめになれば、パンドラもを見直しますよ」
「私は私を叱りに来るパンドラがすきですから」
「性格悪いですよ」
「あなたほどではないでしょう」
ユウラは溜息をついてに出て行くよう手でうながした。
部屋の外に出たはうつむいたパンドラに気がついた。
「パンドラ?」
声をかけるとパンドラの肩がゆれ、顔をあげた。
「・・・・・」
「あんまり叱られなかったよ」
がそう言うとパンドラはほっとした様子である。
「よかった・・・・でも、あなたもよくないのでしょ」
「うんそうだね・・・・パンドラにそんな顔をさせるなんて僕らしくない」
「・・・・・・・?」
「パンドラはこんな僕は嫌い?」
小さく首をかしげて問うにパンドラも僅かに首をかしげて言った。
「そういうことではありませんが」
「そっか、よかった」
の嬉しそうな顔を見たパンドラは首をかしげる。
はぴょんぴょんと飛び跳ねそうな勢いだ。
「、とても嬉しそうな顔ですね」
「とっても嬉しいんだ」
はパンドラを見た。
じっと見つめられ、パンドラはドキリとする。
「パンドラのそばにいられるからね」
「・・・・・?」
はパンドラに近づいた。
「パンドラが好きだよ」
パンドラは間近で見るの瞳に吸い込まれそうになった。
「愛してるよ、パンドラ」
甘い水仙の香りに包まれたと思ったら、パンドラはに口付けられていた。
「僕から逃げていたみたいだけど、もう逃がしてあげないよ」
に抱き締められたパンドラは身動き一つとれない。
パンドラはの背中に腕を回した。
「せっかく逃げ切ったと思ったのに」
「甘いねパンドラ。僕らの師はユウラ様なんだから・・・・・もっとはっきりと逃げないと」
耳元でささやかれる甘い言葉にパンドラは酔う。
逃れられない。
「好きです・・・」
「うん、僕も」
パンドラはの口付けを拒まなかった。
「パンドラに似合う神官にならないとね」
パンドラはその言葉を聞いて慌てた。
「私はそのままのが好きなんですから、変わる必要はありません」
「そう?」
「はい」
は首をかしげるもののうなずいた。
「じゃぁ変わらないよ。君のためだけに」
それからというものによる騒動はなりを潜めたのであった。
「ユウラ、何をした」
「何も」
ユウラはそう言って微笑む。
彼の裏の顔を知っているゼウスはそれ以上何も問おうとはしなかった。