THE END
ルカはイラついた足取りで父ゼウスの寝室へ向かう。扉をノックして開けると、寝台に座ったゼウスとその後ろで横たわっている美しい天使の姿が目に入った。
「きたか」
「何用でしょう」
「」
ゼウスに名を呼ばれ、力なく横たわっていた天使は身を起こした。
銀に輝く髪がその横顔を隠す。
「ルカとともに行け」
「・・・・・はい」
は身体に薄絹を巻くと寝台から降りた。
絹の隙間から白く細い足が見え隠れしている。
「・・・・」
はルカの部屋につくまで何も話さなかった。
「いったいどういうつもりだ?」
「なにがです」
「何故ゼウスなどに抱かれる」
「あなたを守るためと言ったらどうします、ルカ様」
「お前は私のことをルカ様などとは呼ばないだろう」
は小さく笑うとルカを見た。
表情というものが映ったは魅力的に見える。
だが互いにこうしているのは互いの大切なものを救い出すまでと定めている。
「レイは神殿の最奥に閉じ込められているようですね」
「ルシファーの牢へ行くためには神官長が持つ鍵が必要だな」
の顔が悲しそうに曇った。
「そこまでしてルシファーを救いたいのかと聞くと反対にたずねられそうだな」
「当たり前です」
はうなずいた。
互いの利害は一致したからこそ、二人はともに手を組み、大神を欺いているのだ。
「ですが最奥に鍵は神官長・・・・・・難しそうですね」
「あぁ。私がルシファーに会いたいといえば、なんとかならないこともないが」
「それではこちらの条件に反します。私がレイを助けてルシファー様を救うという約束でしょう」
「私がレイを助けていなくなるとは考えていないのだな」
は苦笑した。
ルカはわけがわかないといった様子で片眉をつりあげた。
「レイを先に助ければ、あなたが望むと望まざるともルシファー様を救ってくれますよ」
「何故そう言い切れる」
はくすくすと笑い続ける。
「レイは救われた恩をそのままにしておくような天使ではありませんから」
ルカの眉が不機嫌そうによる。
は白い肌に残された赤い痕に触れた。まるでそこが汚らわしいというかのように服で拭う。
「ゼウスに抱かれているというのは大変不本意ではありますが、これも覚悟の上です」
「覚悟か・・・・・」
「はい。母上から内密に授かっていたオーブによってすべてを見ました。このあとのことも」
「どうなる」
は首を振った。
ルカの問いには答えられないということだ。
ルカはをにらみつけた。
「にらまれても何もできませんよ」
それが制約であった。
未来を知ること、それを変えるためにしていいこと、に許されていることは数少ない。
「助けたところで短い幸せ・・・・それでも私はあの方を救いたい。地獄に堕ちる覚悟はできていますから」
「・・・・・」
は自嘲気味に笑った。
「ゼウス様は何もわかってはいらっしゃらない」
「当たり前だ。ゼウスが何かをわかっていたら、それこそ奇跡だ」
はくすっと微笑む。
「私はあなたとレイが仲睦まじいのが羨ましかった」
はそう言って泣きそうな顔になる。
「私には許されないことだったから」
「・・・・」
は銀の髪に触れると編み始めた。
そういえば、何故髪を伸ばしているのか聞いたことがない。いい機会だ。聞いてみるのもいいかもしれない。
「、何故髪を伸ばしている?邪魔じゃないのか」
「簡単です。ルシファー様が好きだと言って下さったから。私にそれ以上に意味はありません」
はそう断言した。
愛しているものに褒められた。にはそれが大切なのだろう。
「ルカだって、レイに褒められた翼を大切にしていることを知ってますよ」
のことだ。知らないことはないだろうと予測していたから別段驚くこともなかった。
ただ髪を編み終えたが泣いていたことに驚いた。
「、どうした?」
「すみません・・・ちょっと感情が抑えられなくて」
滅多なことでは涙を見せることのないは、久し振りに泣いて混乱しているのだろう。
ルカはそっとを抱き締めた。
「落ち着け」
は強く唇を噛み締めている。
そんなことをしていては唇が切れてしまう。
「・・・・・・」
そっと指をあて、の唇から力を抜く。
「必ずルシファーは助ける。私を信じろ」
「ルカ・・・」
「ルシファーを救ったとき、最高の笑顔で迎えるのだろう?」
は微笑む。
ルカはそっとその額に唇を落とす。
はルカに不安そうな視線を送った。
「なにもしないさ」
ルカはそう言うと寝台に横たわる。
がその隣に横たわった。
形だけでもともに寝なければ、ゼウスに怪しまれる
「おやすみ、」
「おやすみなさい、ルカ。いい夢を」
二人はそうして夢の世界に入って行ったのであった。