聖なる夜に
はじめて街の外に出たは、空の大きさに目を瞠った。空を見上げるをルシファーは微笑ましそうに見ていたが、小さくがくしゃみをするとそっと背後から抱き締めた。
「舞踏会で一目見たときからずっとお前に恋焦がれていた・・・・・」
「ルシファー・・・・・えぇ、私もです。あなたを想うたびに胸が苦しくて」
ルシファーの指がの顔の輪郭をなぞっていく。今度はもう止める者はいない。
「・・・・・愛している」
「私もです・・・・・・」
二人はそっと指を絡ませあった。ははじめての優しい口付けに酔う。
頬を染めたに、ルシファーはそっと笑みをこぼした。
だが、恋人となった二人の前に立ちはだかる壁は大きいものだった。
「ルシファー、あのと付き合うってことは真正面からゼウスと戦うってことになるのだが・・」
「だからどうしたという、ユダ?」
「つまり、サルビナとティグリノスの不和をなくすってことになる。そもそも、お前とだと両家の直系ってことで」
ルシファーは長くなりそうなユダの話から耳をそらした。
あの夜以来二人は内密に会っていた。
会えば会うほどに引き込まれていく。だが、そんなにもここのところ会っていない。
「ルカ、サルビナの様子は」
「とキラの婚約が進んでいるな。近々結婚式を挙げると聞いたが」
ルシファーの瞳が細まった。
「のほうでも動いているだろう。私達に微笑みかけたのことだ。何もしていないわけがない」
「あぁ・・・そうだな」
サルビナ家のは沈んだ顔をしていた。友人であるレイとシンは彼女になんと声をかけていいのかわからない。
「・・・」
「ルシファーは、どう思っているのでしょうね・・・・・」
「キラとの結婚ですか?」
「・・・・・・・キラはいい人です。妻になっても幸せになれるでしょう。でも私は・・・・ルシファーとともにありたい」
閉じたの眦から零れる涙を見たシンとレイはなんとかしたいと思う。
だが、サルビナとティグリノスの嫡子であるとルシファーが結ばれる確率は低い。
そう考え、二人は小さな溜息を漏らしたのであった。
そして、とキラの結婚式が翌日に迫ったある日のことである。
部屋で本を読んでいたのもとにレイが駆け込んできた。
「何事です、レイ」
「大変です、キラが!キラが、ティグリノス家のものと揉め事を起こし、一人に怪我を負わせた挙句ティグリノス家の嫡子に殺されたと」
その言葉には青ざめ、レイとともに両親のもとへむかった。
「か」
「父上、キラは・・・」
「残念だが・・・・・」
「ティグリノス家の方は・・・」
「一人怪我をしたらしい。名までは知らん」
の父、ゼウスはそう言ってユウラを見た。
「ティグリノス家の嫡子が責任を取って街を出て行くことにしたそうだ」
は息を呑むを、へたりこんだ。青ざめたをレイが抱き締める。
ゼウスは怪訝そうな目をに向けた。
「なんだ」
「いいえ・・・・・なんでもありません・・・父上、少し体調が悪いので、部屋にさがらせていただきます」
はそう言うとレイとシンに支えられながら、部屋へと戻る。
ベッドに力なく腰掛けたにシンが冷たい水を差し出した。は弱々しい笑みを見せる。
「すみません・・・・」
「・・・・・、前々から考えてはいたのですが、パンドラ司祭のところへ参りましょう」
「パンドラ殿のところへ・・・・?あの方に何ができるとも思いませんが」
「知恵を貸してくださるはずです。さぁ・・・私たちが手はずを整えますから」
「シン、レイ・・・・ありがとう」
「何を言っているんです。僕たちは親友でしょう?」
「はい」
はシンとレイの手助けのもと、パンドラのもとへと向かったのである。