聖なる夜に
は舞踏会には行かないんですか」
「レイは行くのですか」
「えぇ。素敵な人と出会えるかもしれないでしょう?」
「そうですね・・・」

フランスのとある町
そこの富豪サルビナ家とティグリノス家は対立していた。
サルビナ家の一人娘は友人のレイとシンとともに町の舞踏会へと向かった。


「キラ・・・・・」

婚約者のキラが手を指し伸ばしてくる。はそっと手を重ねた。
二人は踊りの輪の中へ入っていく。友人たちもそれぞれ相手を見つけたようだ。

「綺麗だ」
「ありがとうございます、キラ」

いっぽうティグリノス家の一人息子ルシファーは友人であるユダらとともに街を歩いていた。

「そういえば、ルシファー知っているか?今日はサルビナ家が主催する舞踏会が開かれることを」
「ほう」
「サルビナ家のダイヤといわれるも出てくるらしい」

ルカが言った。ユダがルシファーの肩に手を置く。

「面白そうじゃないか。忍び込んでみるか」
「あぁ」

三人は目元を隠す仮面をつけると、サルビナ家へと忍び込んだ。
ダンスは次々に相手が変わっていく。ルシファーはその輪の中へと入って行った。

「おい、あれ・・・・」

ルカが指し示す先には銀色に輝く髪を持った女がいた。少女のような幼さを残し、成熟した女のような艶やかさも持つ、人目を引かずにはおられない娘だった。

「サルビナの・・・・・・」
「知ってか知らずか、ルシファーは確実に近づいているな」

ルシファーとがダンスのパートナーとなった。その瞬間に曲がワルツへと変わる。
は突然現れた黒髪の青年に目を奪われた。
ルシファーのほうも美しい空色の瞳に吸い込まれそうになる。

「あなたは・・・」
「私は・・・・・」

漆黒の瞳に射抜かれては胸を高鳴らせる。
ルシファーの手がの頬にかかったとき、キラの名を呼ぶ声にはっとなったが、パッとルシファーから身を放す。
二人はしばらく無言で互いを見つめあった後、がキラのもとへ駆けて行ってしまう。
ルシファーのもとへ小走りに駆け寄ったユダとルカは彼に声をかけた。

「どうした、ルシファー」
「さすがはダイヤ、と評されるだけのことはあるな。美しかった」
「サルビナの姫か」
「あぁ。何をしてでも手に入れたくなった」
「だが相手はゼウスだぞ、サルビナはゼウスがいるってだけでも手ごわいのに」
「あぁそうだな」

ユダとルカの言葉をルシファーは聞いていない。二人は溜息を漏らしたのであった。

舞踏会から戻ったは自邸の庭園で一人ベンチに腰掛けていた。
キラは父や母と話をしている。恐らくは結婚についてだろう。
キラが嫌いというわけではない。キラはに優しいし、弟のマヤが自分を慕ってくれているということも知っている。

「・・・・・」

は胸をよぎった青年の面影に、胸が締め付けられる思いを感じた。
カサッと茂みがなった。はびくりとして目の前の茂みを凝視する。
そこから現れたのは舞踏会で出会ったあの青年だった。

「あなたは・・・・」
「ティグリノス家嫡子ルシファー。先ほどは名も名乗らず失礼した、サルビナのダイヤ、・・」
「ティグリノス・・・・・あなたが、あの」
「あぁ」

ルシファーはに手を指し伸ばした。

「一夜の夢を見ないか、私とともに」
「一夜の夢・・」

がそっと手を重ねると、ルシファーはその手を引いて闇に身を沈めた。
はルシファーの腕の中で、彼の鼓動が早いことに気が付いた。

「ルシファー・・・・」
「友人たちが外で待っている。大丈夫だ、誰にも知られないよう手は回してある」

はルシファーの言葉に首をかしげたが、やがて外にいた青年たちの姿を見て納得した。
彼らはサルビナに仕えるレイとシンと踊っていた青年たちだったのだ。

「はじめまして、。俺たちはルシファーの従兄弟ユダとルカ」
「はじめまして。先ほどはレイとシンと踊っていた方達ですね」

は二人に微笑みかけた。

「二人とも喜んでいました。私のほうから礼を言わさせてくださいませ」
「いいや、俺たちのほうこそ楽しんだ。二人にまた会えるといいのだがな」
「・・・・・えぇ、そうですわね」

ルシファーは着ていたマントでの体を包み込む。の銀色の髪は闇夜でも十分に目立ってしまうのだ。

「行ってこい、ルシファー」
「あぁ」

ルシファーはを抱いたまま馬に乗ると街から出て行く。はルシファーの腕の中に包まれていた。