愛しい君へ
紅と白と紫。濡れた瞳が僕を映す。
「・・・・」
君の呆然とした声を最後に意識は途絶えた。
「、また水のそばにいたんですか」
君の不満そうな声に僕は振り向く。やっぱり不満そうな顔をして、でもどこか悲しそうな顔をしてシンは立っていた。
水たちが一斉にもとに戻る。
「また、見つけてくれたね、シン」
「心配しましたよ。どこを探したっていないんですから」
「でも僕はシンが見つけてくれるって信じていたから」
そういうとシンは顔を赤らめる。僕は苦笑を漏らして立ち上がった。
シンの頬に手をかけ至近距離で見詰め合う。君は頬を染めて僕を見た。
「今日はどうしたい?」
「の好きなように・・」
「じゃぁ、そばにいて。ここで僕寝たいんだ」
「はい」
座ったシンの膝に頭を乗せて僕は眠りにつく。優しい手が頬に触れたのがわかった。
「、愛してます」
「ん、僕もだよ」
シンに出会ってから毎日が楽しくて仕方がない。水と戯れるよりもこうして二人だけで時間を過ごすことのほうが多くなった。
でも、別れはすぐだった。
翌日、僕はシンのいる天空城へと足を運んだ。だが、行く途中の不穏な空気に足を止めてしまう。
「よかった、見つかった」
「ソラ?」
今はガイの相棒となっているソラがやってきた。サラやルナもいる。
「無事だったようだね」
「何が。いったいこの空気は」
「、落ち着いて聞きなよ・・・・・四聖獣が反旗をひるがえしたんだ」
「えっ」
シンも四聖獣だ。そのうちの一人だ。
サラがいいにくそうに僕を見て、それでも小さな声で呟いた。
「レイもゴウもガイも、僕らに反逆するってことを伝えてくれたんだ。シンは?」
「そんなこと、何も言っていなかった・・・・・」
「それで、僕らにユウラ様のもとへ行くように言ったんだ。あの人のもとならば安心だからって」
目の前が暗くなった。シンは僕に何も言わず、僕の前から去ってしまった。
いや、まだ間に合うかもしれない。戦火はここまで来ていないのだから。
「?!」
「皆はユウラ様のもとへ」
「は?まさかシンのところへ行くなんて言わないでしょう?」
「行くよ」
「そんな・・・」
「シンは何も言わなかった。それに・・・・」
何かを言おうとしたサラをルナが止める。
「、君の力は僕たち三人だけが知っている。まさか力を使おうとはしないだろう?」
ルナとソラがはっとして僕を見る。僕は小さな笑みを浮かべた。
「力の代償は僕自身の命。シンは嘆くだろうけど、僕はシンに生きていてもらいたいんだ」
「・・・・・止めても行くんだろう?」
「うん。もう止めないの?」
「・・・・・止めない。できることなら僕らだってゴウたちのもとに行きたい・・・・でも、ゴウは僕らの安全を願っているんだ・・・・行けるわけないよ」
泣きそうなソラと額をぶつけあって僕は翼を広げる。
空へ舞い上がる僕の姿を、ルナはいつまでも見送っていた。
やがて降臨したゼウスと、天使たちの一軍を見た。十二神もいる。
僕は天使たちの中にシンの姿を見つけた。
「シン・・・・・」
ふっとシンの瞳が僕をむいた。驚きに染まった瞳が丸く見開かれる。
「ッ!!」
「もう・・・・・・・シンは何も言ってくれないんだね」
「なんで、ここに・・・・・」
「ひどいよ、僕に何も言わずいなくなるなんて・・・・・許さないからね」
「・・・」
「愛してるよ、シン・・・誰よりも、愛しい君に僕の命をあげる」
シンに優しい口付けを落として、僕は近くの天使の腰から剣を引き抜いた。
「さよなら・・・」
僕は心臓を剣で貫いた。白い翼が一瞬にして紅に染まった。
一瞬にして真っ黒になる意識の中で僕は、シンの悲鳴を聞いた気がした。
ユウラは落ちきった砂時計を見た。
それには""と刻印がなされている。
「・・・・・・さよなら、」
その命は愛しい者のために・・・・