高貴なる黒
ユウラからという天使の面倒を見るように言われたユダは天空城の自室に連れて来ていた。
は不思議そうに部屋の中を見回している。

「何か面白いものでもあったか?」
「いえ。私達は普段下界で人間として生活していたので、少し珍しくて」
「どんな生活をしていたんだ?」
「どんな、といわれても困りますが・・・普通に人間たちに混じって同じようなことをして過ごしていました」

首をかしげると首筋できられた髪がゆっくりと顔にかかった。
の髪色は、瞳もだが、美しい黒檀である。天使には珍しい。

「あの、ユダさん」
「呼び捨てでかまわない」
「いいえ。面倒を見てもらうほうなのですから、そこらへんはきっちりと線を引かなければ」
「・・・・・・・もしかして神官だったか」
「はい。一時的にでしたが、ユウラ様に引き取られるまでは神官としてゼウス様にお仕えしていました」
「どうりで・・・・」

ユウラと口調が似ているわけだ。ユダが感心しているところで、はまた爆弾発言をかました。

「少年時代にはクロノス様にもお仕えしていたことがありますが」
「なに・・・・」
「もしかしたら出会っていたかもしれませんね」

はそう言って微笑んだ。ふとユダは脳裏に一人の天使の姿を思い浮かべた。
少年時代、漆黒の髪を持った天使である。ゼウスに仕えていたときには天使長だった。
関係あるのだろうか。

、ルシファーという天使を知っているか」
「ルシファー様ですか?お名前は存じておりますが、お会いしたことは在りません」
「そうか・・・・」

関係ないらしい。
が、ユダの脳裏には一人の天使の姿がちらつく。ルシファーではない、別の天使である。
女神の神殿にユダがいたころ、ちょくちょくと足を運んで、ユダとともに他愛ない会話をしていった天使だ。

「ユダさん?」
、お前女神の神殿に足を運んだことがあるか?」
「あぁ、ありますよ。実は女神の神殿で一人の幼い天使に出会ったことがあるのです。その天使が幼いながらに強い光を目に宿していたので、気に入ってしまったのです。でも、それがなにか?」
「昔、俺は女神の神殿にいた。そこで一人の天使と出会ったんだ。俺たちは他愛ない会話をしていた。いつの間にか、その天使が好きになっていたが、あるときからぱったりと姿を見せなくなった」

ユダはを見た。

「お前だと思う」

は首をかしげた。ユダはに近寄っていく。
その艶やかな黒檀の髪に触れた。

「俺はそれからずっとその天使を探していた。高貴な黒が他のどんな色よりも似合っていた天使を」
「ユダさん・・・・・・」
「俺は見つけたのかもしれないな。ずっと想っていた黒の天使を」

ユダの指先がの頬にかかる黒髪に触れた。ゆっくりと一筋すくい取り、その毛先に口付ける。

「俺は一番幸運かもしれないな」

ユダの笑顔にはドキリとした。そして赤くなった顔をうつむかせたのであった。
ユダはこれからが楽しくなるな、と思い小さな笑みを浮かべたのである。