気持ちの裏
こんなにも憎く思ってしまう。あなたが笑いかけるだけで。
「殿・・・・」
「パンドラ?どうしたのですか」
ふわりと微笑むあなたは至高の天使。
ゼウス様の隣で天使たちを統べる長。
「いいえ、少し珍しいと思いましてね。あなたが神殿から出るなど、滅多にないですから」
「そうでもないですよ?ゴウやユダたちに会いにちょくちょく出てます」
あなたが他の天使を呼ぶとき、胸が痛くなる。
あなたは知っているのでしょうか。
「そうだ、パンドラ。今度私と出かけませんか?」
「殿と?」
「はい。パンドラは神官長、時折気を抜くのもいいでしょう」
あなたを見るたびに胸の痛みは増していく。本当は私だけを見てほしいのに。
「ご一緒していいのなら」
「えぇ、ではまた誘いに来ますね」
殿は優しく微笑むと神殿から去った。また、ゴウやユダ殿のもとへ行くのだろうか。
私は自分の心の内に醜い炎が燃え上がるのを感じた。
「パンドラ」
「殿・・・・・・」
「出かけましょう」
「これからですか・・・・・」
時刻は既に夜半を過ぎている。殿は笑顔でうなずいた。
「ゼウス様のことは心配ありません。今日は強力な薬を飲んでいただきましたから」
「殿・・・・・」
「急がないと。ほら、パンドラ、行きましょう」
殿に惹かれるまま、私は森の奥へと来た。満月が青の湖面に映る。
「間に合いましたね」
殿は嬉しそうに笑った。
「パンドラ、目を閉じてください」
言われるままに私は目を閉じた。殿の姿が見えなくなると、私は心細くなった。
「もういいですよ」
殿の声に私は目を開けた。
目の前に幻想的な光景が広がっていた。
湖の上を飛ぶ光の花びら。無数に舞う花びらはまるで踊っているようである。
「綺麗・・・」
「でしょう?聖霊祭近くのこの時期にしか見られないんです。まだパンドラ以外には教えていない秘密の場所です」
「私以外には教えてない・・・・?あなたならゴウやユダ殿に教えるかと」
「ここは、私にとっても大切な場所ですから」
私は顔が熱くなってしまった。私以外には教えてないということ、大切な場所を教えてくれたから。
「何故・・・」
「何がです」
「教えてください。何故私に教えたのです?」
「あなたには知っていてほしかったから、ではダメですか」
「だめです」
「ひどいですね」
あなたは苦笑して私を見た。月光のような美しい瞳がじっと私を捕らえた。
「私にとって、あなたは大切な人なんです。いつか私がいなくなったとき、ここに来て、これを見ていてもらいたいんです」
「殿・・・」
「パンドラ、あなたを愛しています」
ずっと前から。
あなたはそう付け足した。ひどいと思う。
どうせなら、その言葉、神官となる前に聞きたかった。そうしたら、この身も心もあなたのものになったのに。
「戻りましょう、パンドラ」
「殿・・・・・」
私の声にあなたは足を止めて振り向いた。
「私もあなたが好きです。だから」
いなくなるなんていわないで。そうつぶやいたときだった。