運命の出会い

ラキがその堕天使たちに出会ったのは地獄の奥深く"煉獄"と呼ばれるところだった。

ラキは地獄で生まれた青年である。
猫のように細いダークブラウンの瞳と赤茶色の髪を持ち、天界の天使たちが持つ翼を持っていた。
ただ翼の色は黒かった。

「・・・・・・・煉獄に何かが堕ちたな」

ラキはいつも座っている岩の上から降りると煉獄へと足を向けた。
生まれたときから地獄に住むラキの仕事は番人。
煉獄・地獄に落とされた者達が地上に危害を加えないように瞠るのが役目だ。

「・・・・・天使か」

落ちて着た者たちの姿を見たラキは小さく呟いた。
煉獄の入り口近くに倒れ臥しているのは黒い翼の天使たちだった。
一人は長く黒い髪、もう一人は・・・ケープを深くかぶっているためわからない。

「そういや天界で戦いがあったらしいな・・・・こいつらは負けたやつらか」

ラキはそうつぶやくと彼らに背を向けた。煉獄に堕ちてくるということは神にでもはむかったのだろう。
ふとラキは頭の中に響いた声に足を止めた。

「ユウラか」
『はい。お久し振りです、ラキ』
「元気そうだな」
『えぇ・・・・・あの、そちらに二人の天使が堕ちませんでしたか」
「あぁ今さっき。なんだ知り合いか?」
『はい。私によくしてくれた方たちです。ラキ、その人たちの面倒を見てはくれませんか』
「何でオレが」

不満そうに言うと声の主が僅かに泣きそうな雰囲気を声に滲ませた。
ラキは言葉につまり、その場に硬直する。

『ラキ・・・・』
「・・・・・わかったよ」
『本当ですか?!』
「お前の頼みを聞かないわけないだろう」
『ありがとうございます!!私も、きっとそう遠くない日・・・・そちらにむかうことになります』
「えっ、お前こっちにくるのか」
『はい』

ラキは驚いたが何も言えず、ただだまってしまった。

『ラキ?』
「あぁいや・・・・わかった。じゃぁこいつらはおれが面倒見ておく。もう切るな」
『はい。あっ・・・・ラキ』
「ん?」
『もし二人が目覚めたら私が心配していた、と。あと・・・約束は必ず守ります、と伝えてくれませんか?』
「愛している、だな。わかった、ちゃんと伝えておく」
『ラッ、ラキ!!』

怒ったような声を最後に通話が切れる。
ラキはさて、どうしたものかと二人の天使を見た。
とりあえず起きるまで様子を見るしかなさそうである。
しばらく彼らのそばの岩に腰掛け、ラキは目覚めるのを待った。
やがて黒い堕天使がのろのろと動き出した。

「目を覚ましたか」
「・・ここは」
「煉獄。地獄のさらに奥深くだ」
「・・・・・お前は・・・・・」
「ラキ。地獄の守り人だ。で、お前たちは?」
「我が名はルシファー。こちらはガブリエルだ」
「・・・・・・"明星の君"と"青海の月"だっけか」
「何故その名を・・・・」

ルシファーと名乗った天使は驚いたような顔でラキを見た。
ラキは溜息をついて二人を見る。

「お前たちが"ユウラ"によくしてくれたらしいからな。それにアイツの頼みだ。面倒見てやる」
「・・・・・ユウラとはどういう関係なんだ」
「俺たちは同じ腹から生まれたんだ。女神の腹からね」
「なっ・・・」
「とはいってもゼウスの妻じゃない。創生の女神さ。ただ持って生まれた翼の色でそれぞれに相応しい場所に振り分けられただけ」

ラキは組んだ足にひじを乗せ、顔を乗せた。
やがてラキの唇に笑みが宿る。

「ユウラからの伝言だ。"心配している。約束は必ず守る"だとさ」

ルシファーの顔が苦しげに歪む。ラキはじっとそれを見ていたが、やがて何を思ったかルシファーの近くによっていった。
ルシファーの顎に手をかけると唇を重ねる。漆黒の瞳が驚きに見開かれた。

「・・・・ん、ごちそうさま」

唇をはなすとラキはそう言った。

「・・・・・天界の空気はまずいな。あぁいきなりしてわるかったな、地獄じゃ天界の空気は毒になるから吸い出してやったんだよ。感謝しとけよ?あと、そっちのやつも」

ラキはそう言ってガブリエルとも口付ける。
ガブリエルから離れるとラキは二人を見た。

「さて、これからいつでも一緒だな。せいぜいユウラがこっちにくるまで狂うなよ?」

ラキの背にあった翼がバサリと音を立てたのであった。