桜の姫
彼女が差し伸べてきた手は白く、ほんのちょっと力を入れただけでも折れてしまいそうなほど細かった。 「清苑」 優しい声の人だった。 振り返ればいつも、背後に桜の木があった。 桜が大好きな人だった。 「なにをしているの?」 「なにも・・・・」 彼女は首をかしげると清苑の隣に立った。 一つ年上の彼女は清苑よりもほんの少し背が低い。 彼と同じ浅葱色の髪にそっと触れた。 「姉上・・・」 「どうしたの?」 「・・・・もしも私がここからいなくなったらどうしますか?」 「悲しむわ」 「泣きますか?」 「えぇ」 「・・・・・狂いますか?」 「きっと」 「・・・・」 「この桜の下で」 ひらひらと桜の花びらが舞い踊る。 清苑は彼女を抱きしめた。 「愛しています、あなたを・・・・あなただけを」 「私も、清苑」 「どうか、名前で呼ぶことを許してください」 「別にかまわないわ。でもそのときは、あなたが兄となって」 「私が?」 「えぇ。そうじゃないと、名前で呼ばせてあげない」 「・・・・・わかりました」 「うん。じゃぁ名前で呼んで」 白い指先が頬を撫でていく。その手に自らの手を重ねながら清苑はつぶやいた。 「愛しています、 」 「私もです、兄上」 それが禁断の恋だとあのときの私たちは知らなかった。 姉弟で愛し合うことのなにがいけないの? ただ愛し合っているだけなのに。 この身に残るあなたの熱が愛しくて、 たまらなくて、 さびしくて、 狂いそうになってしまう。 ただ愛があればかまわないのに。