「か・・・・」
「なんですか、私じゃいけないような言い方」
妻の怒った口調に凰珠は小さな笑みを漏らした。
「そんなことを言うのでしたら、風邪を召されても看病いたしませんよ」
「そう怒るな・・・・・」
優しく抱き寄せてやるとはムスッとしながらも寄りかかってくる。
が少しすると凰珠の仮面を取り去り、その素顔を目の前にして微笑んだ。
「凰珠、私の前では仮面を外してくださいと言ったでしょう」
「家人が倒れたらお前も困るだろう」
「二人きりのときだけですわ」
二人は至近距離で視線を交わしあい、そして口づけあう。ぬばたまに輝く黒髪が月の光を反射した。
「凰珠・・・・・」
「お前だけだな。女で私の素顔と対等にむきあえたのは」
「あら、黎深から紅姫も向き合ったと聞きましたが?」
「あれはあれだ」
「話をそらさないでくださいませ」
凰珠は苦笑しての頬を撫でる。は気持ちよさそうに眼を閉じ、凰珠に擦り寄った。
「私、少し妬きましたのよ。あなたが紅姫のことを気に入っていると景侍郎から聞いて」
「それは嬉しいことだ。滅多に妬かぬお前が妬いてくれたというのは」
「まぁ」
「時にはそう言う事を言って見るのもいいな」
くっくっくと笑う凰珠の頬には触れた。凰珠が目を向けるとそこに少しだけ怒ったの顔がある。
くるくると変わる表情が愛おしかった。
このまま許されるのであればずっとこのままそばにいたかった。しかし、それは叶わぬ願いであろう。
いつか彼女は元の世界へと戻らなければいけなくなる。それが・・・・・・
「凰珠?」
「ん、どうした」
「どうかしましたか、少し顔が暗かったですよ」
「・・・・気のせいだろう」
「そうでしょうか・・・・・」
「・・・・・・・」
「はい」
「いつか戻るときがきたらお前はどうする?」
の動きがとまった。彼女だってそのことは考えていたのだ。
もともと王の娘なのだ。いくら彩七家といえども簡単に会える身分ではないはず。
しかし彼女は今ここにいる。今、主上が彼女の正体を公にすれば、彼女はここにいられなくなる。
「・・・・私は戻りません」
「何故だ。主上がもし正体を」
「あの子は無理強いしません。あの子は誰よりも人の幸せを願っている子ですから・・・・・・」
「・・・・」
「それに今の私のいる場所はここです。凰珠、あなたの傍が私の居場所なのです。もっともあなたが出て行けと言えば出て行くつもりですが」
凰珠は口元に笑みを浮かべの額にくち付けを落とした。
「出て行けなどというわけないだろう。私はお前のことを愛しているのだから」
「ではずっとそばにおいてくださいますか、凰珠」
「あぁ」
ずっとそばに
あなたが私を愛してくれる限り
愛してますよ、凰珠