清苑には大事な姫がいる。
紫、清苑の姉で、でも彼女は姉と呼ばれることを嫌い逆に清苑を兄と呼んだ。
「」
「兄上っ!」
優しく名を呼んでやれば、は嬉しそうに駆け寄ってくる。
その柔らかな体は羽のように軽く、つややかな黒髪からは甘い香りがただよう。
「どうした、嬉しそうな笑顔で私を探して」
「兄上、琴を聴いてください」
「琴?」
「はい。上手くできるようになったので兄上にお聞かせしようと思って探していたんです」
「そうか。うん、是非聞きたいな」
「はいっ!」
の母は美しく、そして優しかった。が、体が弱くを産んだあとすぐに亡くなってしまったのだ。
それでもは清苑がいるからなのか、いつでも笑っていた。
「兄上?」
「あっ・・・・どうした、」
「少しぼぉっとしていましたから」
今は美しく育ったが目の前にいた。
琴の音につらつらと夢の世界をさまよい、そして昔の夢を見ていたのだろうか。
清苑はを引き寄せると、優しく抱きしめた。
「兄上・・・・」
「、私がいなくなったらどうする?」
「何を差し置いても兄上を探しに行きますわ」
「劉輝を置いてでも?」
「・・・・・・はい」
は一瞬の沈黙ののちに言った。
清苑は優しくの耳をかんだ。あっ、とが小さな声をあげる。
「、お前は姉なのだからちゃんと弟の面倒を見なければいけないよ」
「それならば兄上もでしょう?私や劉輝の面倒をちゃんと見てくださいな」
清苑は小さく笑って、一本とられたな、という。もクスクスと笑っていた。
そこへ二人の弟である劉輝が顔をのぞかせた。
「やっぱり姉上だ」
「どうしたの、劉輝」
「姉上の琴の音が聞こえたからきっと姉上と兄上がいると思って」
劉輝は姉に抱きついた。は優しい笑みを浮かべて劉輝の頭を撫でる。
慈愛に満ちた、まるで母のような瞳だった。彼女が母ならばよかった。こんな思いを持つこともなかったのに。
愛するという想いを
「静蘭様?」
「さん・・・・・どうかなさいましたか?」
「はい。秀麗姫にこれを差し上げてください。凰珠に贈られてきたもので悪いのですが・・・・私の家では誰も食べなくて」
「すみません。お嬢様も喜ばれます」
「いいえ」
ほんの少し、傍を離れていただけなのにさらに美しくなっていた。今まではその隣に静蘭、否清苑公子がいたのに・・・・
今はもう、彼女の隣には別の者がいる。清苑の代わりに彼女を愛し、幸せにできるものが。
「少しだけ悔しいのかもしれないな」
「どうかさないましたか?」
「いえ・・・・・・・そうだ、さん」
「はい」
「ほんの少しだけでいいのです・・・・・手を握ってはもらえませんか」
「手を、ですか」
「はい」
は少し首をかしげたのち微笑んだ。ツボミが開いたような笑い方だった。
そっと静蘭の手にの手が絡む。絡んできた手を強く静蘭は握った。
離れていた時間を埋めるかのように。