「・・・・・・・・」

風に流れて悲しげな歌が響き渡る。
それを桂小五郎は聞きとめた。傍らを歩く赤毛の青年もまた、歌に気がついた。

「・・・・・・・悲しげな歌だな」
「そうですね」
「一体誰が・・・・・・・」

そう呟いたのもつかの間、傍らの青年が剣を抜く。
桂の前に出て刀を構えた。
前方から走ってくる音が聞こえる。
誰かの姿が見えると同時に青年が走り出した。月明かりに照らし出された姿を見た桂が青年を止めようと叫ぶ。

「待て、緋村っ!」
「えっ・・・・」

青年は剣を振り下ろす一歩手前で止まった。
桂のもとに誰かが飛び込んでくる。桂は力いっぱい抱きしめてやった。

「よく無事だったな、紫苑・・・・」
「桂・・・・・せんせぇ」

桂の腕の中に飛び込んだものは紫苑だった。
紫苑は腕の中で泣きじゃくる。桂は紫苑の頭を優しく撫でてやった。

「大変なことがあったそうだが、大丈夫か?」
「・・・・・ひく、はい」
「よかった・・・・・・」

桂は困った顔をしている青年―緋村を見た。

「彼女は隠密として幕府側の情報を集めていてくれていたんだが、最近行方不明になってね・・・・無事に戻ってきてくれて何よりだよ」
「はい・・・・・」

紫苑は青年を振り向いて首をかしげた。

「彼は・・・・・・・」
「緋村剣心だ。普段は暗殺を頼んでいるが、今日は私の護衛だ」
「暗殺・・・・・・・」
「そう」
「・・・・・・・・私は神村紫苑。よろしく・・・・・・えといきなりごめんなさい、泣き出しちゃって」

紫苑は緋村に手を差し出した。

「同じ維新志士。どうか仲良くしてくださいね」
「・・・・・・・・」

緋村は無言で紫苑の手を握った。
桂は紫苑の頭を優しく撫でてやる。

「紫苑は私の妹のような存在なんだ。無事で何より・・・・・本当に心配した」
「すみません・・・・・」
「もういいよ。さて、戻るか。紫苑、キミの住むところは普段どおりになっているから心配はいらない」
「ありがとうございます、桂先生」
「緋村と一緒のところだ。あぁでも心配はない。緋村とは別部屋だからな」
「そりゃそうでしょう」

緋村はブスッとした顔で言った。紫苑はクスクスと笑った。桂も笑っている。
紫苑はやっと自分のいるべき場所へ戻ってきたな、と思った。