「紫苑さん、お茶一杯もらえますか」
「はい、どうぞ。ちょうど淹れたばかりなんです」
「ありがとうございます」
紫苑は笑顔で沖田にお茶を渡した。
「紫苑さんのお茶ってホッとするんですよね。とってもおいしいです」
「ありがとうございます、沖田さん」
紫苑はふと門の外を見た。そこに一人の青年が立っていた。
紫苑の顔が途端に青ざめる。沖田がそれに気がついて首をかしげた。
「どうかしました?」
「・・・・・・」
紫苑は何も言わずに青年の下へ走り出した。
沖田はその様子をじっと見守った。
「悠斗!」
「紫苑っ!」
青年も紫苑のそばへ駆け寄ってきた。
紫苑は青年に抱きつく。青年も強く紫苑を抱きしめた。
「あぁ・・・・無事でよかった・・・・・・」
「あなたも」
「でもなんで新撰組の屯所なんか・・・・・・やっぱり腕を?」
「うん・・・・・あなたには心配をかけたわね」
「いや・・・・・・」
悠斗と呼ばれた青年は愛しそうに紫苑の頬に触れた。
「お頭・・いや、紫苑・・・・・・・・・君がいない間ずっと心配していた。連絡もつかないし・・・・・・」
「ごめんなさい」
「大丈夫。さっ戻ろう」
「・・・・・」
紫苑は悲しげな目で悠斗を見た。
悠斗は首をかしげる。
「戻らないのかい?」
「あのね・・・・・・私、しばらくここにいることにしたの」
「なんで!ここは敵の中じゃないか!ばれたら殺される」
「恩義があるの。私、ここの人たちに助けられたから」
悠斗は知っている。この少女が恩義に厚いことを・・・・・・・
悠斗は嘆息した。
「わかった。でも僕もそばにいるよ、紫苑」
「だめ・・・・・だめよ」
紫苑は悠斗と引き止めた。
悠斗は紫苑の頬に触れた。
「あなたまでを危険にさらすわけには行かないの・・・・・・・お願い、かえって」
「でも・・・・・・・・・・・・・・・紫苑、今までは君がお頭だったから言えなかった。君が好きだ。君を・・・・君の一番そばで守りたい」
「悠斗・・・・・・・・!」
紫苑はバッと悠斗の手をはじいた。悠斗は驚いた顔をして紫苑を見ている。
「お願い・・・・・・・・帰って!!私はお頭を降りる。悠斗・・・・・・皆に伝えて。ごめん、って・・・」
「紫苑・・・・・」
「隠密衆は解散させるわ。私の後釜は難しいと思うの。お願い、皆には生き残って欲しい。私のわがままで皆の人生を狂わせてしまった。せめてもの償いよ・・・・・・」
そう言って紫苑は屯所の扉を閉めた。
沖田がかけよってくる。
「紫苑さん?」
「・・・・・・・・大丈夫、もうあの人は来ませんから」
「いいんですか?」
「いいんです」
「でも、泣いてますよ?」
「っ!?」
沖田は優しく紫苑の頬に触れた。
紫苑はそこで自分の頬に何かが流れていることに気がついた。
「紫苑さん・・・・・・・・・・」
「沖田さん、しばらくしたら、私、ここを出て行きます」
「えっ・・・」
「そんなこと・・・・・・っ!」
「んっ」
沖田は紫苑の体を抱き寄せた。
紫苑は紅くなりながら必死で沖田の体を押し返す。
しかし所詮は男と女。沖田の体がびくともしない。
「切腹になっちゃいますから・・・・・・お願いです、やめて・・・・・・・」
「あなたが出て行かないといったら、やめます」
「それは・・・・・・」
「できませんか?」
「・・・・・・」
紫苑は泣きそうな眼で沖田を見つめた。
「沖田さんには本当に感謝しています。でも私がいてはきっと大変なことになる・・・・・・・あなたを巻き込みたくはないのです。私たちの事情に」
「えっ・・・・・」
「あなたに出会えて本当に良かった・・・・・・ありがとう、沖田さん」
沖田の体にドンッという衝撃が走った。
気絶していく沖田が最後に見たのは優しく微笑む紫苑の姿だった。