新撰組一番隊組長、沖田総司が少女を見つけたのは巡回から戻ってきてからだった。
「女の子?」
沖田はそっと少女の額に手を当てる。途端手を引っ込めた。
「熱がある・・・・・・苦しそう・・・・・・手当てしてもらったほうがいいよね」
沖田は少女の体を抱き上げた。
軽すぎる体だった。そして細い。少し力を入れれば簡単に折れてしまうだろう。
「あっ斎藤さん」
「沖田君?その少女は一体・・・・・・・」
「門の前で倒れていたんですよ。すごい熱だし、苦しそうで放っておけなかったんです」
三番隊組長斎藤一は少女の顔をじっと観察した。
そして呟く。
「毒、だな。致死性はないだろうが、ひどい苦痛だろう。この毒の解毒薬があったと思うよ。持ってくるから寝かしておいたほうがいい」
「はい。ありがとうございます」
沖田は少女を自分の部屋へ連れて行き、そっと寝かせた。
時々少女は苦しそうに眉をひそめる。そのたびに沖田は優しく冷たい布で額の汗をぬぐってやっていた。
まるで妹ができたみたいだな、と沖田は思う。
「でも誰なんだろ・・・・・町人の娘さんだよね・・・・・・・」
顔立ちもよい、着ているものもただの町人にしては中々いいものだ。
沖田は絹のような髪に触れた。よほど大事にされているのであろうその髪は枝毛一本としてなかった。
「沖田君、解毒薬だ」
「あっ斎藤さん、どうも」
沖田は斎藤から解毒薬を受け取ると少女の口に含んだ。
白い喉が一度だけ動き、しばらくすると少女の熱が引いていった。
沖田は安心したように笑う。
「よかった。助かりそうですね」
「そうだね。じゃぁ私は副局長に報告してくる。沖田君は彼女のそばについていてあげてくれ」
「わかりました。お願いします」
斎藤がいなくなってしばらくすると少女が目覚めた。
藍色の瞳を沖田へとむける。
「・・・・・・・・誰?」
「新撰組一番隊組長、沖田総司。気分はどう?」
「・・・・・・大丈夫」
少女は曖昧に答える。
沖田は少女に水を差し出した。少女はそれを受け取ると一息に飲み干す。
「・・・・・・・助けてくれてありがとうございました」
「どういたしまして。ところで君の名は?」
「・・・・・・・紫苑。すみません、それだけしか教えられないんです」
「紫苑、か・・・・・・・いい名前だね」
「・・・・・ありがとうございます。私も気に入っているんです」
紫苑という名の少女はそう言って笑った。沖田もそれにつられて笑う。
それから新撰組の局長と副局長がやってくる。
「沖田君、彼女が?」
「えぇ。門の前で倒れていたんです」
「何か、あったのかい?」
近藤という名の男が紫苑にそうたずねた。
紫苑はうつむいて小さく首を振る。
近藤のそばにいた男が紫苑の顎をつかんで視線を合わせた。
「知っていることがあるのなら、さっさと言え小娘」
紫苑はビクリと体を強張らせる。
二人の間に沖田が割ってはいる。
「土方さん、それは彼女を怯えさせるだけですよ」
「総司、甘い。最近このあたりで隠密が動いているのを忘れたか?維新志士どもの仲間が」
「忘れてませんよ、でもこの女の子は関係ないでしょう」
二人は喧嘩をはじめる。紫苑は慌てて二人を止めに入るが、近藤に止められる。
「大丈夫だ。それよりも君は何故屯所の前に倒れていたんだ?」
「・・・・・・・」
紫苑はシクシクと泣き始めた。
近藤は紫苑の肩に手を置いた。
「家族も皆殺されたんです・・・・夜盗に襲われて・・・・・・唯一逃げられた私もやつらが後ろから放ってきた矢に当たって。それでここが新撰組の屯所って聞いていたから・・・きっとこの人たちなら助けてくれるって思って」
「そうか・・・・・・それは残念だったな」
「私、親戚もいないんです。誰も・・・・私これから」
「それならここにいませんか?」
「総司!てめぇなんてことを言ってやがる」
「だってかわいそうじゃないですか」
「だからって女を入れるか?!」
沖田と土方はまた口論をはじめる。
紫苑はオロオロと二人の様子を見ていた。近藤が少し苦笑気味に言った。
「紫苑、行くところがないのならいてもかまわないが・・・・・・身の安全は保証しかねる」
「・・・・・居させてください。出来る限りのことはしますから」
紫苑がうなずくと近藤は了承するように一つうなずいた。
そして沖田と土方を止めに入ったのだった。