シュッと黒い影が一瞬月明かりをさえぎる。
「ん〜?」
寝ぼけている兵は目をこすりながら上を見上げた。
銀の光が近づいてくるのがわかった。
「うっ・・・・・・ぎゃぁっ!」
赤い霧が吹き上げる。
いくつもの影が地に降り立った。
「行きなさい」
中央に立つ、兵を殺した人影が言った。
どちらかというと周りに立つ者よりも背が低い。
周りに立つ者たちがいっせいに姿を消す。最後に残った者も姿を消した。
しばらくして城内のあちこちから悲鳴が聞こえ始め、血臭もしはじめる。
城内から逃げ出すようにして影が一つ二つ。
その影は近くの川原に集まった。
「ご苦労。首尾は?」
「完璧です、御頭」
「そう。じゃぁ戻ってもいいわ。また連絡はするから」
その一言で影が分散する。
一人そこに残ったものがあった。
「どうしたの?」
「いえ・・・・・・・・腕、大丈夫ですか?」
少しだけハッと雰囲気が硬くなる。
「・・・・・大丈夫よ。ありがとう」
「・・・・・・・・お体を大切に、御頭」
残った一人もまた消える。
御頭と呼ばれた影はサッと着ていたものを脱いだ。
その下に着ていたのは町人の娘の服。
黒く長い髪はゆったりと背に流れ、藍色の瞳が月の光を照らし出していた。
女だった。少女というに相応しい年齢の・・・・・・
彼女は少しふらつきながら、歩き始める。どうにかして住んでいる場所へ戻らなければいけない。
先程仲間が心配したのは自分の腕に刺さった矢のことだ。毒矢だった。
ゆっくりと毒が回り始め、目の前が揺らめく。
「隠密頭とあろうものが・・・・・・なんてことなのかしら」
彼女はついに足を止め、座り込んだ。それは何か門の前だった。
体が熱くなってくる。
"このまま死んでもいいかもしれない・・・・・"
少女は小さくそう思った。そして眼を閉じる。
途中誰かに抱きかかえられ、冷たい布を当てられたことがわかったが覚えているのはそこまでだった。