届きそうで、届かない
は窓辺に座って煙草を吸うティキを見ていた。
彼の姿を見るだけで心臓が高鳴るのだ。
「ティキ・・・・・」
「ん、どうした?」
「・・・・・・こっちきて」
少し甘えるような声を出す。ティキは苦笑しながらそっと近寄ってきてベッドに座った。
二人分の重さでベッドがきしむ。
「どうした?」
「ギュって抱きしめて」
「・・・・・・・・甘えん坊」
眼を閉じれば煙草の匂いが鼻をついた。優しい温かさに包まれる。
「どうした」
「なんでもないの。ただ・・・・・・・すぐ近くにティキを感じていたいなって思っただけだよ」
少しだけ不安だから。あなたが遠くに行ってしまいそうで。
「愛してるわ、ティキ」
「オレも」
「本当?」
「本当」
「ねぇティキ?」
はティキの頬に手を這わせた。ティキは優しい眼差しでを見つめている。
「ねぇ・・・どこにも行かないわよね?私の手の届かない場所に」
「なんだよいきなり」
「・・・・最近ね、あなたが遠くに行ってしまう夢を見るの。どんなに声を張り上げても手を伸ばしてもあなたは気がついてくれないの・・・・」
少しずつ涙声になる。はバッとティキから顔を背けた。
ティキは優しくの頬に触れるとそっと顔を自分の方へむけた。涙に濡れた瞳がティキを見た。
「そんなことない。俺はを置いてなんかいなくならないよ」
「本当に?」
「本当」
「絶対に?」
「あぁ」
「じゃぁ・・・・約束して。どんなに遠くに行っても絶対に戻ってくるって」
「わかった。約束するよ、。それに俺の戻ってくる場所はのいるここだけだから安心して」
「うん」
の額に口付けを落とす。はそっと眼を閉じた。
ティキは小さな笑みをこぼすとポケットの中から小箱を取り出す。
「開けてみて」
はそれを受け取るとゆっくりと小箱を開ける。中身を見たの瞳は驚愕と喜びに色取られていた。
「ねっ?、俺はお前をおいて行ったりしない」
中にあったのは小さなトパーズが埋め込まれた指輪だった。ティキはそれを取り出すとの左手をとる。軽く手の甲に口付けると指輪を薬指にはめた。
「オレと結婚して、?」
「いいの?私でいいの?」
「お前がいいの。俺を満足させることが出来るのはだけだから」
「ティキ・・・・・・」
「だからさ、オレと結婚して?」
は指輪に涙を落とすとティキの首に抱きついた。ティキは苦笑しながらその背を撫でてやる。
「私、絶対にティキのことを待ち続ける」
「うん」
「ここで、あなたの帰りを待ってるわ」
「うん」
「だから・・・・・・置いていかないでね?」
「・・・・・・うん」
ティキはもう一度の額に口付ける。
「もう少しお休み、。昨日も全然寝てないんだからさ」
「うん。ティキ・・・・・どこにも行かないでね」
ベッドに横たわるにうなずいて見せながらティキはの瞼をとじる。
しばらくそうしていると規則正しい寝息が聞こえてきた。
「愛しているのは本当。結婚して欲しいのも本当。全部本当のことなんだ。でもな、俺は・・・・」
世界を新しくするために行かなきゃならないんだ。
「愛してるよ、。もしも上手くすべてが終わったら迎えに来るから、それまで待ってて」
ティキはいつの間にかシルクハットにスーツという姿になっていた。
ドアノブに手をかけながら彼はもう一度蘭華の寝ているベッドを振り返る。彼女は幸せそうな微笑を浮かべて眠っていた。
「・・・・・・Byebye,.I love you・・・・そう、この世が果てるまでね」
ティキは小さく呟くとドアを開けて外に出て行った。笑みを浮かべて眠るの頬に一筋の涙が伝った。

「ティキ・・・・・」

どんなにその背を追いかけても
どんなに声をあげて名を呼んでも
あなたは振り向いてくれない
私を見てはくれない
あなたは私を置いて行ってしまう
ほんの少し遠くにいるだけなのに
あなたとの間に崖がある
届きそうで、届かない
あなたの背中